【蹴球日本を考える】多摩川クラシコは“大富豪”のFC東京に軍配。強い手札を持つ篠田監督がやるべきことは?

2017年03月19日 熊崎敬

内容は褒められたものではないが、勝ったことに大きな意味がある。

FC東京は今季、この大久保をはじめ各チームの主力級を大量補強。指揮官の手元には数多くの有力なカードがある。写真:田中研治

 3万6000人の大観衆が詰めかけた「多摩川クラシコ」は、3-0で東京に軍配が上がった。
 
 ベストメンバーが揃わず、ACLの疲労を引きずる川崎が苦しくなってきた頃合いを見計らって、篠田監督は切り札ピーター・ウタカを投入。昨季得点王の投入で流れは東京に傾き、終盤に3ゴールが生まれた。
 
 P・ウタカは1ゴール・1アシストの活躍。ロスタイムにファン待望の大久保の初ゴールをお膳立てした。
 
 この東京の勝利を見て、頭に浮かんだのがトランプゲームの「大富豪」だ。念のためルールを手短に説明すると、相手より強いカードを出していき、早く手札がなくなった人が勝つというもの。最強のカードは「ジョーカー」である。
 
 多摩川クラシコがそうだったように、今季の東京は大型補強で揃えた強い手札を勝負どころで一気に投入して、勝利を手繰り寄せている。
 
 東京はルヴァンカップも含めて今季5試合を戦い、4勝1敗。全12ゴールのうち、実に11ゴールが後半に生まれているのだ。
 
 大久保や阿部、永井あたりを先発に起用し、敵が疲弊してきた終盤、P・ウタカや中島、前田らを投入して勝負を決める。これは強い手札を持つ「大富豪」だけに許されたゲームプランだ。
 
 多摩川クラシコに話を戻すと、試合内容は良くなかった。前半はゲームを上手く組み立てられず、ショートカウンターから何度か攻め込んだものの最終局面で精度を欠いた。正直なところ、内容は褒められたものではない。
 
 つまり東京は、悪いながらも勝った。もしかすると、この事実に意味があるかもしれない。というのも強いチームというものは、内容が悪くても結果をしっかりと出すからだ。サッカーは思い通りにならないスポーツ。悪い時に、どれだけ勝点を拾えるかがカギになる。そうした処世術に長けているのが、19冠王者の鹿島である。
 
 強い手札を何枚も持っている篠田監督がやるべきことは、稀代の戦術家となって美しいサッカーを構築することではない。それぞれを信頼してやる気を引き出し、競争させながらベストタイミングで手持ちの札を投入するということ。
 カードの切り方を間違えなければ、勝点は順調に増えていくのではないだろうか。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
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