「戦力外」から這い上がった矢先に大怪我…。それでもバルサの苦労人は笑顔と気迫を失わない

2017年02月17日 工藤拓

試合中の衝突によって足首が不自然な方向に曲がる……。

悶々とした1年半を経て、ようやくバルサで戦力になりつつあったアレイシ・ビダル。それだけに今回の大怪我は残念でならない。写真:Rafa HUERTA

 サッカーの神様は、時に残酷なまでに厳しい試練を突きつける。
 
 2月11日に行われたアラベス対バルセロナ戦(リーガ・エスパニョーラ22節)の85分。テオ・エルナンデスと交錯した直後、アレイシ・ビダルの足首が不自然に曲がった……。思わず目を背けたくなるようなシーンだった。バルセロナ・ファンでなくとも、神様の気まぐれを呪った人は多かったのではないか。
 
 遡ること5か月前。奇しくも同じアラベス戦(昨年9月10日のリーガ3節)で、アレイシの苦難は始まった。バルサが今シーズン初黒星を喫したこの一戦で、彼は緩慢な守備でイバイ・ゴメスの突破を許し、決勝点を招く一因を作ってしまう。
 
 そしてこの試合をきっかけに、アレイシはルイス・エンリケ監督のチーム構想から完全に外されてしまった。
 
 以降、年明けまでに出場機会を与えられたのは、3部エルクレスとのコパ・デル・レイ2試合、消化試合だったチャンピオンズ・リーグのグループステージ最終節のみだ。
 
 事実上で唯一の右SBであるセルジ・ロベルトが欠場した際もチャンスは与えられず、指揮官は時にSBがない3−4−3にシステムを変更し、ついにはBチームの控え選手をベンチ入りさせてまで、アレイシを拒絶し続けた。
 
 その理由が純粋にパフォーマンスの問題なのか、それ以外に何らかの遺恨があったのかは分からない。いずれにせよ、半ば戦力外で「出て行け」と言わんばかりの冷遇を受ける中、アレイシはシーズン半ばの移籍を視野に入れながらも、黙々とトレーニングに励み続けた。
 
 そして冬の移籍市場がオープンした1月、アレイシの運命は思いもよらぬ方向へと一変する。ジョアン・カンセロ(バレンシア)やエクトル・ベジェリン(アーセナル)、マッティア・デ・シリオ(ミラン)など狙っていた即戦力の補強が難航する中、過密日程をこなすS・ロベルトのパフォーマンスが低下してきたこともあり、L・エンリケが再び背番号22をローテーションに加え始めたのである。
 
 リーガでは15試合ぶりとなる出場機会を得た18節のラス・パルマス戦でアレイシは、攻守で躍動したうえに移籍後初ゴールまで記録。自身を冷遇し続けた指揮官の口から賞賛の言葉を引き出してみせた。
 
「アレイシは監督の意見を変えた。今日は素晴らしい試合をしてくれた」

次ページ失望の大きさは我々の想像を遥かに上回るものだろう。

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