好調ホッフェンハイムの青年監督が実践してみせた「真の選手育成」

2017年02月09日 中野吉之伴

ほとんど出場機会のない選手を大事な場面で送り出した理由。

期待に応えたテッラッツィーノのゴールに、居ても立っても居られず、駆け寄っていった瞬間(ナーゲルスマン監督は左端)。 (C) Getty Images

 その瞬間、青年監督は弾かれたように駆け出していった。ホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマンはコーナーフラッグへと足を急がせ、喜びを爆発させる選手の前へと素早く回りこむと、思いっきり抱きついた。
 
 ブンデスリーガ第19節、ホッフェンハイムがホームにマインツを迎えた一戦は、終盤までどちらに転ぶか分からない試合展開だったが、最終的には終了間際にゴールを重ねたホームチームが4-0で快勝。冒頭のシーンは、試合を決定付ける2点目が生まれた直後の一幕だ。
 
 ペナルティーエリアすぐ外からのFKをデミルバイが左足で直接狙うと、シュートはGKの手をかすめてバーを直撃。跳ね上がったボールに誰よりも早く反応したのが、途中出場のテッラッツィーノだった。
 
 全身をしならせながら懸命に飛び上がり、必死にクリアしようとする守備をはねのけて、ヘディングでボールを押し込んだ。
 
 テッラッツィーノはレギュラーではないし、ずっと活躍している選手ではない。それどころか、出場は今シーズンの開幕戦(対RBライプツィヒ)以来2試合目。そんな選手が大事な終盤に投入され、1ゴール1アシストと、周囲の期待以上の結果を残してみせたのだ。
 
 試合後の記者会見、地元記者から「これまで出場機会もほとんどなかった彼を起用しようと思った理由は?」と質問されると、ナーゲルスマンはマイクを手にし、ゆっくりとこう語り出した。
 
「取り組むべきことに真剣に向き合っている姿を見てきた。先週、長い時間をかけてじっくりと会話を交わしたんだ。そしてオープンに伝えた。考え過ぎているんじゃないかって」
 
「監督として、選手には守備を要求している。それはもちろん、やらなければならない。だが、自分の強みがどこにあるかを見落としてはならないんだ」
 
「彼には、自分の武器にフォーカスし、それをどう発揮するかに集中することが大事だったんだ。そしてここ最近のトレーニングでは、すごいプレーを見せていた」
 
「『自分の長所を出してみろ!』という指示に対し、彼は今日の試合で見事にそれを出してくれた。特に、ボールがないところでの非常にアグレッシブなスペースへの動き出しが素晴らしかったね」
 
「あのゴールには興奮したよ。自分の監督人生で初めて駆け出すくらいにね。すぐにでも祝福したかったんだ。僕が言ったことをこれ以上なく見事に実践して、ゴールに相応しい働きを見せてくれたのだから。だから、彼のゴールを祝う最初の人間でいたかったんだ」
 
 そう言って、ナーゲルスマンは優しく笑った。

次ページ「チームのために」という言葉を隠れ蓑にしない青年指揮官。

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