【連載】蹴球百景vol.9「2026年に『セカンド・ワールドカップ』を!」

2017年01月19日 宇都宮徹壱

問題は枠を広げることそのものではなく、レギュレーションにある。

2026年大会から48か国に枠が拡大されることになったワールドカップ。果たしてこのアイデアは吉と出るのか。(Rio de Janeiro, Brazil 2014)

「あれ」は一種の同調圧力だったのだろうか? 最近、そんなことを考えている。「あれ」というのは、このほどFIFAの総会で決まった、ワールドカップ出場国拡大の決定のことだ。現在、32か国となっているワールドカップ出場国は、2026年大会(開催国は未定)から48か国に拡大することが決まった。

 このアイデアは、昨年FIFA会長となったジャンニ・インファンティーノ氏の就任前からの公約ではあった。が、これほどあっさり決定してしまったのは、正直意外であった。
 
 それ以上に意外だったのが、今回の決定が総会の満場一致で決まった、という事実である。他媒体でも書いたことなので簡潔に記すが、今回の決定はワールドカップという大会の価値を毀損する恐れがあると考えている。それ以外にも、予選の緊張感がなくなる(特にアジアにおいて)、開催国の負担が増える、3チームによるグループリーグに有利・不利が生じる、などなどの懸念がクリアになっていない。少なくともこの件は、もう少し議論を重ねるべきであったと思う。
 
 出場国拡大を全面的に賛同したのが、FIFAランキングふた桁に入れないような国々であったことは容易に想像できる。では、そうではない国々も賛成に回った理由は何だったのか? そこに私は、同調圧力の匂いを感じる。理由はふたつ。まず、出場枠が増えたことで恩恵を受けてきた国々が確実に存在すること。そしてワールドカップ常連国が反対に回れば、すぐさま「既得権益」のレッテルを貼られかねないこと。こうした空気が、同調圧力を誘発して「満場一致」となったのではないか、というのが私の見立てである。
 
 開催国枠の拡大の恩恵を受け、しかも同調圧力にめちゃくちゃ弱い国民性ゆえに、日本はなおさらのこと「否」と言いにくかったのだろう。それに私自身、「小国」へのシンパシーというものは持っている。出場国が16から24に増えた昨年のユーロ2016でも、人口30万人のアイスランドをはじめ、ウェールズや北アイルランドには心からの声援を送っていたし、出場国で最低のランキングのアルバニアの頑張りにも感動を覚えた。であるがゆえに「小国」を無下に排除しようとは思わない。
 
 問題は枠を広げることそのものではなく、レギュレーションである。48チームを3チームずつ16のグループに分けて、弱小国16か国を2試合のみで追い出し、32チームとなったところで「こっからホンマのワールドカップや!」というところに、むしろ大国の欺瞞がないだろうか。ゆえにグループリーグは、やはり4チームずつで行なわれるべきだ。とはいえ64か国に出場枠を広げると、さらに収集がつかなくなってしまう。ならば、どうする?
 
 私のアイデアは「セカンド・ワールドカップ」の開催である。各大陸予選で、惜しくも本大会出場を逃したチームを16~24か国集めて、ワールドカップの隣国で同時期に開催する、というものである。位置付けとしては、欧州チャンピオンズリーグに対してのヨーロッパカップ、もしくはアジアチャンピオンズリーグに対してのAFCカップだ。異なる大陸の同じくらいの力量の国と真剣勝負ができて、しかもFIFAの公式戦となれば、強化面でも十分に意味があるだろう。実現の可能性が低いことを承知で、FIFAの再考を期待したい。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。このほど『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)を上梓。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。
 
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