【小宮良之の日本サッカー兵法書】“常勝”に向かうチームの前に立ちはだかる“驕り”の危険な罠

2017年01月12日 小宮良之

どのように敗れたのか、その教訓を得ているのも強者だ――。

クラブとして驕り高ぶっていた「銀河系軍団」全盛時のマドリーは、皮肉なかたちで大きな代償を支払わされることとなった。 (C) Getty Images

「常勝」とはなんぞや?
 
 その境地に辿り着ける人間は限られている。辿り着いたとしても、一瞬にして靄(もや)に包まれてしまう。"常勝"レアル・マドリーの権化で、ナンバー7の起源になったアマンシオはこんな話をしていた。
 
「勝ち続けた者にしか辿り着けない境地がある。しかし、永遠に勝ち続けることはできない。どのように敗れたのか、その教訓を得ているのも強者だ」
 
 筆者は、その教訓の"繋ぎ目"を2004年4月7日、モナコのルイ二世スタジアムで目撃している。
 
 当時、「銀河系軍団」と呼ばれたレアル・マドリーは、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、ルイス・フィーゴ、ロベルト・カルロス、デイビッド・ベッカムらを擁し、威容を誇っていた。
 
 チャンピオンズ・リーグ(CL)準々決勝・モナコ戦の第2レグで敵地に乗り込んだマドリー。第1レグを4-2で制しており、下馬評は圧倒的有利だった。そして第2レグでも、前半でラウール・ゴンサレスが先制点を決め、勝ち上がりは決まったかに見えた。
 
 ところが、かつてマドリーに所属したフェルナンド・モリエンテスに手を焼き、前半終了間際と後半開始直後に失点を喫し、1-2と逆転されてしまう。
 
 楽勝ムードだったマドリーは、パニックに陥る。攻め寄せる敵を払いのけるのが精一杯で、スター軍団の威厳は見る影もなく、波状攻撃に屈して失点。1-3と、トータルスコアでも逆転を許してしまった。
 
 そこから逆襲に転じるかと思われたが、マドリーの選手の足取りは重かった。連戦の疲れか(興行面の収入増のためにアジアツアーなどが増加)、連勝の驕りか、とにかく身体が動かなかった。そうして、銀河系軍団は地に墜ちた。
 
「10回戦えば、9回は負ける」
 
 モナコを率いていたディディエ・デシャン監督がそう語るほど、両チームのあいだに力の差はあったが、奇跡は起きた。
 
 しかし、それは必然の結果だった気もする。
 
 マドリーは大金を叩いてスター選手を集めていた。ポジションの都合など関係なかった。それによって、ネームバリューの劣るモリエンテスは放出されたわけだが、皮肉にもお払い箱のFWに引導を渡された。

次ページメンタル次第――。思い上がった瞬間、チームは空洞化する。

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