【選手権】開幕戦で新星現わる! 関東一の1年生GK、その名は北村海チディ

2016年12月30日 川原 崇(高校サッカーダイジェスト)

「まったく緊張しなかった。自分でも驚いてます」

抜群の身体能力で会場を沸かせた北村。気になるルーキーGKが台頭した。写真:徳原隆元

[選手権開幕戦]関東一 1-0 野洲/2016年12月30日/駒沢

 想定外のアクシデントが起こったのは、後半10分過ぎだった。
 
 第95回全国高校サッカー選手権、その開幕戦。優勝経験のある強豪・野洲(滋賀)との一戦に臨んだのは、選手権初登場の関東一(東京B)だ。序盤から敵の圧倒的な個人技と流麗なパスワークにさらされ、持ち前のアタッキングマインドを発揮できず、後手に回る展開が続いていた。チャンスらしいチャンスを掴めず、最終ラインの粘りと正守護神、内野将大(3年)の好守で耐え忍んでいた。
 
 そんな折、内野が悲運に見舞われたのだ。相手選手との接触プレーで左手の小指を激しく傷め(のちに骨折と判明)、途中交代を余儀なくされる。この窮地に投入されたのが、第2GKの北村海チディ(きたむら・かいちでぃ)。なんと公式戦出場がわずか2試合目のルーキーだった。

【PHOTO】選手権1回戦:関東一 1-0 野洲
 
 父がナイジェリア人、母が日本人のハーフプレーヤー。サイズは1㍍72㌢・60㌔とGKにしては華奢だが、持って生まれた身体能力が自慢だ。ピッチに登場するや、満員札止めの駒沢陸上競技場の観衆がどっと沸いた。独特の存在感があり、なにかやらかしそうな雰囲気を醸し出している。最初のセットプレーを無難にしのぎ、いきなり鋭いパントキックで見せ場も作った。堂々たる立ち居振る舞いだ。
 
「最初に入った時、先輩から『いつも通りにプレーすればいい』って優しい声掛けをしてもらってたんで、落ち着いてプレーできました。それに、まったく緊張しなかった。自分でも驚いてます(笑)」
 
 学校で北村の担任でもある小野貴裕監督は、「選手権の大舞台で戦えるメンバーを選んだ」と語る。第2GKが試合途中から登場するのはどんな局面か。容易いシチュエーションでない場合が多く、相応のメンタルタフネスが問われる。そこに、あえて1年生を据えた。「ものすごいバネを持っていた」と中学時代に才能を見初め、みずからスカウトした逸材は、指揮官の期待通りにすんなりとゲームに溶け込んだのだ。
 
 劣勢の関東一だったが、後半21分に同じく途中出場のFW重田快(2年)がPKをゲット。これをエースで主将のMF冨山大輔(3年)がしっかり決め、虎の子の1点をもぎ取った。あとはリードを守り切るのみ。そして終了間際、「見せ場を作りたいと思っていた」という北村に、野洲が襲い掛かる。
 
 左CKから野洲FW毛利大河(3年)が強力ヘッダーを放つ。これまでかと思われた瞬間、脱兎のごとき身のこなしで北村が反応。鮮やかに左手ではじき返したのだ。
 
「空中戦での強みであったり、最後は自分のいいところが出せたし、怪我をした内野くんの想いも背負って勝つことができた。本当に嬉しいです」
 
 
 
 

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