【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の百零三「試合に“出られない”のではなく“出られるポジションがない”選手たち…」

2016年12月27日 小宮良之

ポジション問題がコロンビア代表のエースの手足を縛っている。

クラブワールドカップ優勝直後のハメスの移籍発言は、世界一の喜びに水を差す行為だとして、チームメイトからも批判を受けることになった。写真はコパ・デル・レイ4回戦。 (C) Getty Images

「事ここに至っては、このクラブでプレーを続けるかどうかは分からない」
 
 レアル・マドリーの10番、ハメス・ロドリゲスはそう言って移籍を仄めかしている。
 
 優勝したクラブワールドカップの決勝、鹿島アントラーズ戦で、彼は出場機会を与えられることはなかった。
 
 ガレス・ベイルが怪我で不在でも、右サイドのアタッカーに入ったのはルーカス・バスケスだった。そのL・バスケスの代わりに入ったのはイスコ……。
 
 ハメスは、その屈辱に耐えられなかったのだろう。
 
 もっとも、勝手な言動にマドリー幹部は激怒した。「5億円ユーロ(約600億円)の違約金を払う以外、全てのオファーを突っぱねる」と強硬姿勢に出ている。
 
 移籍先の候補として、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、パリ・サンジェルマンが名乗りを上げているといわれるが……。
 
 なぜ、ハメスは"渦中の人"になってしまったのか?
 
 彼の本職はトップ下、もしくは攻撃的MFである。バックラインの前での豊富なイマジネーションと高いスキルは他の追随を許さない。左足のキックは強烈で、得点力も兼ね備える。
 
 しかしながら、マドリーはBBC(ベイル、カリム・ベンゼマ、クリスチアーノ・ロナウドの3トップ)が基本システム。いわゆるトップ下、攻撃的MFというポジションが存在しない。両ワイドはC・ロナウド、ベイルの聖域。次の候補は、サイドをドリブルで崩す特徴を持つL・バスケスだった。
 
 代わりに、ハメスにしばしば用意されてきたポジションが、インサイドハーフである。しかしこのポジションとトップ下(攻撃的MF)は役割が重なるところはあるものの、決して同じではない。
 
 結局のところ、ポジション問題がコロンビア代表のエースの手足を縛っているのだ。
 
 インサイドハーフは4-3-3というシステムにおいて、アンカーと前線(SBも)を連結させ、攻守を引き回す役割を担う。
 
 守備では、時に最終ラインにまで下がってプレッシングをかけ、攻撃ではコンビネーションを使いながら敵陣内までボールを運ぶ、攻守両面で能動的なポジションと言える。ボールを搾取し、ボールを(失わず)供給する、その連続性に、インサイドハーフの真髄はある。
 
 一方、トップ下や攻撃的MF(サイドハーフ)はあくまでボールを受けてから(お膳立てをしてもらってから)、決定的な仕事をする。ゴールに近いポジションで、相手を上回る閃きやスモールスペースでの技術やパワーが求められる。インサイドハーフとは重複点はあっても、概念が違うのだ。

次ページ与えられた仕事に適応することは大事だが、向き不向きがある。

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