【連載】蹴球百景vol.6「地域CLで実現した“重みのあるダービー”」

2016年12月03日 宇都宮徹壱

実のところ今一番熱いかもしれない県は…。

JFL昇格を懸けて地域CLで激突した鈴鹿アンリミテッドFCとヴィアティン三重。ライバル対決は予想を覆す結果となった。写真:宇都宮徹壱(Chiba, Japan 2016)

 11月、久々に新著を上梓した。タイトルは『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』。全国津々浦々のアマチュアサッカークラブ(その後、Jリーグに昇格したクラブを含む)のルポルタージュを15の章にまとめた作品である。この10年ほどライフワークとしてきた、地域リーグやJFLへの取材の(現時点での)集大成。ちなみにタイトルは「おく(東北)」となっているが、遠く四国や九州のクラブも取り上げている。
 
 Jリーグ、JFL、地域リーグに天皇杯。さまざまなカテゴリーや大会を追いかけているうちに、気がつけば47都道府県のほとんどを訪ね歩いてきた。未踏県は、わずかにふたつ。福井県と三重県である。このうち福井は、来年は全社(全国社会人サッカー選手権大会)が開催されるので、その機会に塗りつぶす予定。もうひとつの三重についても、最近Jを目指すクラブが3つも存在する三国志状態となっていたので、「いずれ取材しよう」と思っていた。
 
 ところが、今年の地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ。地域決勝から今年改称)で、三重の2クラブがJFL昇格を懸けて激突することとなった。鈴鹿アンリミテッドFCとヴィアティン三重だ。鈴鹿は「FCランポーレ鈴鹿」と名乗っていた時代から東海リーグ1部に7シーズン過ごしていたのに対し、三重は今季、2部から昇格したばかり。全国への挑戦は、鈴鹿が3回目で三重は今回が初めてだった。
 
 千葉県市原市で開催された、地域CLの決勝ラウンドに進出した4チームのうち、JFLに昇格できるのは上位2チームのみ。しかも、3日間連続で行なわれる極めて過酷なリーグ戦である。すでに2日目でFC今治が2位以内を確定させており、残る1枠を勝点3で並んだ鈴鹿と三重が争うことになった。こうなると、もはや単なる同県対決ではない。勝者にはJFL昇格への道が拓かれ、敗者は来季も東海リーグ。これほどまでに「重みがあるダービー」は、世界的に見ても極めて稀であろう。
 
 もともと鈴鹿と三重との間には歴とした差があった。鈴鹿のルーツは名張市にあり、前身となるクラブは1980年に設立されている。それに対して三重は、2012年にトップチームが立ち上がり、三重県リーグ3部から上を目指してきた(当時の名称はヴィアティン桑名)。その後、三重は1年ごとにカテゴリーを駆け上がり、今季ついに先達と同じステージに到達したわけだが、戦績は実に一方的。リーグ戦や天皇杯予選などで今季は5回対戦して、1分4敗と三重は大きく負け越していた。
 
 三重の海津英志監督は「鈴鹿さんは今でも仰ぎ見るような存在」と語り、鈴鹿の小澤宏一監督は「ここで三重に負けてしまえばすべてが帳消しになる」と気を引き締めていた。結果は、大方の予想を覆して三重が4-1で勝利。勝者と敗者のコントラストは例年以上に苛烈なものであった。
 
 かくして来季、三重はいち早くJFLに抜け出し、鈴鹿は同県のFC伊勢志摩と東海リーグを戦うこととなった。三重県を本拠とする全国リーグ所属のクラブは、コスモ四日市FC以来21年ぶり。そんな三重に続こうと、新たなダービーの行方も気になるところだ。日本のサッカー地政学という点では、実のところ、今は三重が一番熱いのかもしれない。来年はぜひ、かの地の現場を訪ねてみることにしたい。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。このほど『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)を上梓。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/
 
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