【蹴球日本を考える】「秘伝のたれ」のような鹿島の変わらぬ味。川崎は作り上げた味を守れるか?

2016年11月24日 熊崎敬

16年前の、あの柏戦を彷彿とさせた鹿島の抜け目ない戦いぶり。

小笠原(写真)や曽ヶ端など、ごく一部のメンバーを除けば鹿島も大きく顔ぶれは変わったが、クラブの哲学はまったく揺らぐことはない。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 1-0で川崎を退けた鹿島を見て、脳裏に甦った試合がある。いまから16年前、旧国立競技場で行なわれた第2ステージ最終節の柏戦だ。
 
 それはJリーグ史上初めて、最終節で勝った方がステージ優勝を決めるという大一番だった。引き分けでも優勝の鹿島は、鉄壁の守りによって柏を完封。120分(当時は延長戦があった)をスコアレスで凌ぎ、タイトルを獲得した。
 
 チャンピオンシップ準決勝の鹿島は終盤、右CKから粘り強くボールを保持し、コーナー付近で3度のスローインを獲得。抜け目なく時計の針を進めた。16年前の柏戦でも、鹿島はビスマルクを中心に露骨な時間稼ぎをやっている。
 
 いまの鹿島には、ビスマルクのような元セレソンはいないし、トニーニョ・セレーゾ元監督のようなブラジル人監督はいない。その意味では見た目はたしかに変わった。だが結果のためには手段を選ばない、という精神は変わっていないのだ。
 
 数あるJクラブの中でも、鹿島はどこよりも伝統を大切にしてきた。勝負への厳しさは16年前どころか、Jリーグが開幕した1993年からのもの。そう、ジーコの精神はいまも生き続けている。
 
 鹿島の伝統は、老舗の焼き鳥屋や鰻屋の「秘伝のたれ」のようなものだ。店主が代わっても継ぎ足されるたれの味が変わらないように、監督や選手、スタッフが変わってもチームの精神は変わらない。
 
 変わらない、変えないというのは、なかなか難しいことだ。
 Jリーグでは過去、鹿島、V川崎、磐田、横浜、G大阪、浦和など、数々のチャンピオンが誕生した。だが、鹿島ほど長く優勝争いを続けているクラブはない。それは人が代わるたびに、クラブの哲学が変わってしまうからだ。
 
 一時期、鹿島と覇権を争った磐田も、藤田、名波、服部といった黄金期のメンバーが去り、弱体化した。「秘伝のたれ」は何代も続くが、Jリーグは一代限りがほとんど。鹿島の変わらぬ味はもっと評価されるべきだろう。
 
 伝統というテーマで、ひとつ気になるチームがある。鹿島に敗れた川崎だ。
 
 この日の川崎は熱のない試合をして敗れ去ったが、それはともかく風間監督は今季限りで退団すると一部では報道されている。
 
 優勝という結果こそ出ていないが、風間監督は在任5年で川崎を常勝軍団に育て上げた。等々力に行くと面白いサッカーが観られる、という評判も定着した。
 監督が退団しても、この味は守られるだろうか。
 
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
 
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