ユース年代最強と謳われる守護神、大迫敬介の格別

2016年11月06日 川原 崇(高校サッカーダイジェスト)

この1か月間は自己との葛藤の連続だった

来夏のU-20ワールドカップ出場に照準を合わせる大迫。じつにスケールの大きいGKだ。写真:森田将義

 自身のふたつのファインセーブでPK戦を制したゴールキーパーが、人目もはばからず泣きじゃくっている。11月5日のJユースカップ準々決勝、サンフレッチェ広島ユース対セレッソ大阪U-18戦でのひとコマだ。
 
 主人公は、広島ユースのU-19日本代表GK、大迫敬介。
 
 じつにスケールの大きい守護神だ。185㌢・82㌔という公称サイズ以上に存在感と威圧感があり、セービングの基礎技術はもちろん、足下の巧さと強靭なメンタリティーを兼ね備える。おまけに誠実な性格の持ち主で、試合後のコメント力も申し分なしだ。ユース年代最強守護神のひとり、と謳われるだけのことはある。

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 にっこりと笑いながら、涙の理由を明かしてくれた。
 
「じつは僕、PK戦で勝ったのが初めてだったんです。本当に練習でも止めれなくて、先輩で巧いキーパーがいるのでコツとか止め方を教えてもらっていました。そこにきてチームのみんなも自分に期待してくれてポジティブな声をかけてもらって……。勝って泣いたのは人生二度目です。1年生の時のプレミアで、ずっと負けててやっと勝てた名古屋戦が最初。雨の試合でしたね。今年? 今年は初です(笑)」
 
 広島ユースのGK陣は、他チームが羨むほどの分厚い選手層を誇る。2年生の大迫とスタメンの座を争ってきたのが、ふたりの3年生GKだ。大迫が「早く動くな。もっとぎりぎりまで待て」とPKの薫陶を受けたのが水田雄真で、チームメイトの信望が厚い兄貴分。そしてもうひとりがこの試合の第2GKで、「ベンチで一番声を出してくれてた」(大迫)という伊藤隆介だ。広島ユース5人目のキッカー、イヨハ理ヘンリーのショットが決まった勝利の瞬間、一目散にベンチから大迫の元に駆け寄り、「敬介、お前すげーよ」と抱き寄せた。さまざまな感情が入れ交じり、大迫の涙腺は決壊した。
 
 この光景を眺めていた、沢田謙太郎監督の言葉だ。
 
「敬介はそんなにPKが得意じゃなかったんですけど、今日はすごく落ち着いてましたね。隆介とふたりで話してましたよ。『なんか変なタイミングがあったら教えて』『オッケー』と。だから自信を持って臨めたんでしょう。先輩たちと競り合って、互いを認め合い、切磋琢磨できる関係が、彼を成長させているんです」
 
 「3年生にとっては最後の大会ですから」と語る大迫は、心優しき人情派。だがこの1か月間はメンタルタフネスが問われる、自己との葛藤の連続だった。初のアジア制覇を成し遂げたU-19日本代表。歓喜に沸いたバーレーンの地に、正守護神の座も十分に狙えた彼の姿はなかった。
 

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