【磐田】レジェンドが漏らす「生きてて良かった」。名波浩監督の並々ならぬ覚悟と決断力

2016年11月03日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

「俺が日和るわけにはいかない」

「前向きなサッカーをやるためのメンバーを選ぼう」と決断。それが功を奏した磐田は、クリーンシートでの勝利でJ1残留を決めた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

「生きてるな、生きてて良かったなと思う」
 
 会見場に入ってきた名波浩監督は、少し冗談めかして、それでも多分に実感のこもった言葉を漏らした。今季のリーグ戦最終節にして、やっとJ1残留を決めたのだ。しかも4分の上田康太のゴールが両チーム唯一のスコア。緊張の糸は張りっぱなしで、嘆息するのも無理はない。
 
 結局、名古屋は湘南に1-3、新潟は広島に0-1、甲府は鳥栖に0-1で敗れた。磐田自体がどういう結果であろうと来季もトップディビジョンで戦うことは決定していたわけだが、途中経過でライバルが負けていようと安心はできない。何が起こるかは分からない。それがJリーグだ。
 
 主審の笛が高らかに鳴り響き、タイムアップを告げるまで、安息の気持ちなど微塵も湧き上がらなかったに違いない。だからこその、「ホッとした。安堵感が強かった」という想いなのだろう。
 
 実はスタメンと紅白戦でレギュラー組に入ったメンバーは異なる。最初は普段以上の手堅さでもって、J1残留を掴もうと考えていた。それでも、「最終的には前向きにサッカーをやるためのメンバーを選ぼうと決断した」のだ。それが勝利につながった。
 
 では、その勇気はどこから生まれたのか。そのひとつは指揮官が抱く"アクションサッカー"という信念にあるはず。ボールを相手に持たせる、ガチガチに自陣を固める。それは目指すものではない。
 
 そしてもうひとつ。「多くのサポーター、身内、知り合いの方々がこんなチーム状況でも応援してくれていると改めて実感した」のが、「俺が日和るわけにはいかない」という気持ちを強くさせた。
 
 それが奏功した。クラブのレジェンドが示した"いつもどおり"に背中を押された選手たちはライン間のコンパクトさを保ちつつ、守備時には縦ズレと横ズレのスライドをスムーズに行なった。好調を維持するハモン・ロペスを抑え、梁勇基や奥埜博亮といった選手の2列目からの侵入もよく防いだ。
 
「後半にかけて相手が推進力を持ったカードを切ってくるのは想定していた。では、それに対して自分たちはどう受けるのか。ジェイ以外、ラインを2~3メートルほど下げて、もう一回ブロックを作り直す意識を持たせた。
 
 最後の仙台のパワープレーの際にはパパ(パパドプーロス)を入れて3バックにしたが、そういう場面がくるというイメージをベンチもピッチ上の選手たちもできていた。だから、そこまで慌てなかった。
 
 前節も選手たちには『このゲームに勝てば、今季はすべてチャラだ』と強く伝えた。『お前らはチャラになる』と。それを実現できて良かったし、最終節をクリーンシートで勝って終われるなんて、こんなに気持ち良いことはない」

【仙台 0-1 磐田 PHOTO】磐田は上田のFKで勝利、残留決定!

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