【浦和優勝の舞台裏】叩きのめされた元日のロッカー。指揮官が漏らした“弱音”に選手は奮い立った

2016年10月17日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

ペトロヴィッチ監督は声を詰まらせて言った――。

タイトル獲得という「結果」を残すことで、ようやくペトロヴィッチ監督のスタイルが日の目を見た。(C)SOCCER DIGEST

[ルヴァン杯決勝] G大阪1(4PK5)1 浦和/10月15日/埼玉スタジアム2002


 元日の味の素スタジアム、またもG大阪に敗れた天皇杯の決勝戦のあと、沈みかえる浦和のロッカールームで、ペトロヴィッチ監督が声を詰まらせて選手たちに言った。
 
「すまない。私のせいだ」
 
 指揮官は選手たちに謝罪した。
 
「私の力不足であり、やはり持っていないようだ……」
 
 もしかすると、本当はミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)らしくユーモラスに、笑いを交えて伝えようとしたのかもしれない。しかし指揮官は明らかに憔悴し、その言葉どおり、ただ自分を責めているとしかいえなかった。
 
 選手たちはそんな打ちひしがれるミシャの言葉にふと耳を疑り、同時に逆に守らなければいけない師にこんな悔しい想いをさせてしまっていることに、とにかく申し訳なく思った。
 
〈ミシャ、そんなことあるもんか〉
 
 誰もがそう思ったものの、声には出せなかった。タイトルを獲ることでしか、この無念は晴らせない――。

 答えはそのひとつしかなかった。
 
 2016年は、そんな屈辱的な敗戦からの出発となった。全員攻撃と全員守備をモットーに3-4-2-1の基本布陣と独自の戦術で戦うミシャスタイルの真価を示すには、誰の目にも分かる結果=タイトルを獲得するしかないと誓い合った。
 
 12年に浦和の監督就任したミシャ体制下で、これまでタイトルの懸かった試合を落としたのは、三度あった。さらに、昨季はチャンピオンシップ準決勝でも敗れていた。
 
 13年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)決勝・柏戦では、主将のボランチ大谷秀和が出場停止になるなど「圧倒的優位」と言われながらカウンターに沈み、0-1で敗れた。しかもこの一敗でダメージを受けたチームは、その後、上位につけていたリーグ戦でも一度も勝てず優勝を逃した。
 
 14年はあと1勝でリーグ優勝が決まるという超満員の埼玉スタジアムで、G大阪に敗れた。その後のリーグ2試合も落としてしまい、目の前にあった自力で掴めるはずだったタイトルがすり抜けていった。
 
 そして昨季は無敗でファーストステージを制しながら、シーズン終盤にまたも失速……。チャンピオンシップ準決勝で、再びG大阪に敗れた。
 
 さらに……。

次ページ「何が足りないのを学ばなければいけなかった」。58歳の指揮官は悔しさを糧にする。

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