【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の八十九「宇佐美が欧州で輝けない理由」

2016年09月22日 小宮良之

「武器がなかったら、世界では通用しない」は真実か?

Jリーグでは傑出した活躍を見せた宇佐美だが、ブンデスリーガでは下位クラブで出場機会さえままならないのが現状だ。(C)Getty Images

 武器。
 
 サッカーというスポーツでは、しばしばその重要性が語られる。例えば、圧倒的なスピードであったり、走行距離を走れるスタミナであったり、長身で大柄な体躯だったりするだろう。ドリブルやヘディングやシュート力という一芸だったりもする。
 
 とくに誰にでも分かるプレーは、スペクタクルと解釈されやすい。自然、そういうプレーヤーは人気を集めることになる。
 
 日本サッカー界では、「武器はなにか?」 という問いかけが習慣化している。「武器がなかったら、世界では通用しない」と、専門家までがしたり顔で言う。
 
 しかし、これは真実なのか?
 
「分かりやすく伝わるもの、それは対処できるもの」。それがサッカー先進国、スペインで識者の間で語られる現実である。
 
 すぐに伝わる速さや強さという武器は、世界ではまったく通用しない。「ウサイン・ボルトのように速い選手なら走らせなければいい」。それだけのことである。スペースを与えない、走る前に駆け引きをして小突く、もしくは間を取ったポジションをする、後ろから潰す、その対処が「戦術」である。そして戦術を駆使することによって、スピードの利点を封じられる。
 
 大事なのは、持っている武器を十全に使い、相手の武器を使わせない賢さを持っているか、だ。武器を持っているか、ではない。武器そのものにこだわるから、「日本サッカーは戦術に欠ける」と指摘され続ける。
 
 近年のJリーグでは宇佐美貴史(当時・ガンバ大阪)が、左サイドからカットインしてのゴールをいくつも決めていた。華やかで才能を感じさせるプレーだ。
 
 しかし、欧州トップレベルのディフェンダーは、その武器の性能を読み、対処してくる。戦術を発動させるのだ。それ故、武器にこだわる宇佐美はヨーロッパでJリーグと同じような活躍ができない。「いいものは持っているのに」、ということになる。
 
 実際、宇佐美はかつてバイエルンとホッフェンハイムで大きなインパクトを残せず、今夏に移籍したアウクスブルクでもここまでほとんど出番を得られていない。
 
 また、リーガ・エスパニョーラのアラベスには「世界で1、2を争うアウトサイドキックの名手」と言われるイバイ・ゴメスというアタッカーがいる。左サイドから右足アウトで蹴るキックは、左インサイドで蹴ったような軌道で、リズムを外して蹴られるため、独特の間合いがある。芸術性を帯び、そのキックだけで一驚の選手だが、自ら技をこじらせやすく、研究されやすい対象でもある。
 
 だからイバイは、誰もが認める一芸を持ちながら、なかなかブレイクしきれない。

次ページメッシやイニエスタの武器を一言で答えるのは不可能だ。

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