J2降格危機の湘南。無人のスタジアムで、背番号1がずぶ濡れになり居残り練習。その想いとは?

2016年08月28日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

控えに甘んじたGKが練習に没頭する光景は――湘南の戦いは、まだなにも終わってなんかいない――というひとつだけの事実を物語っていた。

2試合連続でスタメン落ちになった村山。試合後の“居残り練習”に「特別な意味はないですよ」と語った。(C)SOCCER DIGEST

[J1第2ステージ10節]
湘南ベルマーレ 1-2 ガンバ大阪 
8月27日/Shonan BMWスタジアム平塚

 接近する台風10号の影響により、湘南とG大阪の選手たちは吹き付ける強い風雨に90分間苦しめられた。Shonan BMWスタジアム平塚での一旦弱まったと思われた雨脚は、後半途中から試合終了に向けて再び強まった。
 
 リーグ8連敗――。湘南サポーターの鬱積する怒りであり、選手たちの悔しさとやるせなさであり、それらすべてを急激に冷やそうとするかのように、敗戦を告げる笛がなったあとも雨は激しさを増して降り注いだ。
 
 ほとんどが屋根で覆われていないため、観衆は足早に帰路に付く。つい先ほどまで歓声が響いていたスタンドには、椅子やタータンを叩く雨の音だけが響いた。
 
 すると土砂降りのピッチに、汚れていない綺麗なユニホームを着たGK村山智彦が出てきて、コーチ陣との居残り練習を開始する。この日はベンチで試合を見守った背番号1が、ボールと芝の感触を確かめながら雨と汗でずぶ濡れになり、泥にまみれて、コーチと声を掛け合い複数のメニューをこなした。会場の撤収作業が進むなか、気付けば30分ほどが経っていた。
 
「特別な意味はないですよ」
 
 今季開幕からレギュラーを務めてきたものの、タンドウ・ベラピにポジションを譲り2試合連続のスタメン落ち。この居残り練習にはそういった悔しさも込められていたからではないか――。そんなこちらの勝手な憶測であり深読みを察し、村山はそう切り出した。
 
「ホームのスタジアムを使える機会は限られています。それに明日から(2日間の)休みを挟むので、ここで一度しっかり練習をしておきたかった。だから、僕以外のGKでも、こうしてやっていたはずです」
 
「特別」ではなく「普段どおり」の居残り練習であったと強調していた。ただ、人いきれの消えたスタジアムで、控えに甘んじたGKが次に訪れるチャンスを掴むために練習に没頭する光景は――湘南の戦いは、まだなにも終わってなんかいない――というひとつだけの事実を物語っていた。
 
「全員で戦っていかなければいけない。試合に出る、出ないにかかわらず、チームのためになにができるのかを考えて、行動していくだけです」
 
 村山の言葉は、おそらく湘南の全選手の想いを代弁していた。一人でも欠けては湘南ベルマーレではない。サポーターやファンも含めて。全員の力を一丸にした時にこそ、このクラブは強大な力が発揮されるのだと。

【J1採点&寸評】湘南×G大阪|湘南8連敗…。一方、G大阪は首位・川崎と勝点2差に大接近、MOMは逆転勝利の立役者――
 

次ページJ1残留へ厳しい状況。それでもライバルとの直接対決を残し、挽回の余地は少なからず残っている。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事