現場の空気を変えるため、あえて強調した二文字。「諦める必要はない」安間新監督のもとで磐田はいかに再起を図るか

2025年10月02日 河治良幸

守備の問題が明確にあることを指摘

安間新監督のもとで巻き返しを期す磐田。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 ジョン・ハッチンソン監督の退任を受け、シーズン終盤にジュビロ磐田の指揮を託されたのは、これまでU-18を率いてきた安間貴義監督だった。

 J1昇格に望みをかける残り7試合、もしプレーオフに回ればさらに2試合。クラブにとって命運を分ける勝負の場をどう戦い抜くのか。

 もちろんシーズン途中の監督交代は、クラブにとって容易な判断ではない。藤田俊哉SDは、前監督が目ざしてきた"アクションフットボール"の構築に関して「浸透した部分は間違いなくあります。攻守においてアグレッシブに、という意味では昨年よりベースは1つ上がったと思います」と評価するが、J1昇格という大きな目標を最優先で考えた時に、8位(31節時点)というポジションから突き上げていくには監督交代が必要という結論になったという。

「代えるリスクと代えないリスクで、代えるリスクを取った」と藤田SD。候補としては外部の監督を引っ張ってくるより、間近で見たり、接してきた内部から選ぶことが最善と考えて、これまで前監督を支えてきた久藤清一コーチ、U-18の安間監督、U-15の服部年宏監督の3人から、最終的には安間監督に命運を託すことになった。

 当然ながら、安間監督をU-18から引き上げることは、磐田としても大きな決断となる。ここからプレミアリーグ入りも現実になりつつあるチームから、言わば監督を引き離すことになるからだ。藤田SDは「U-18の監督をトップに昇格させたことに関しての責任というのは、ものすごくある」と認めた。実際、トップチームの監督就任を決意した安間監督が、ユースの選手たちにそれを伝えると、聞いた選手たちは全員が泣き出したという。

「驚きました。普段はそんなキャラじゃない子たちばかりなんですけどね」と安間監督も語るが、クラブの命運がかかるこの時期にオファーされたことについて、安間監督はクラブがまだ昇格を諦めていない証だと受け止めた。
 
 そして残された時間を考えても、ここから迷ったり、考える時間をもらうという選択肢はなかった。安間監督がかつてコーチを務めたヴァンフォーレ甲府とのアウェーゲームがあり、そこから代表ウィークの中断期間を経て、逆転昇格への大一番となるホームの徳島ヴォルティス戦がある。

 U-18の監督として、トップチームの戦いを見てきた安間監督は、守備の問題が明確にあることを指摘する。前から行けている時はいいが、それができなくなった時にブロックを組んでも、何となくやられてしまう状況が続いていたことは確かだ。

 失点を減らすために守備的に戦うということではないが、90分、ボールを前から奪いにいくことが難しいなかで「上に勝ち上がろうとすればするほど、1点の重みは変わってきます。0-0の時間を嫌がらず、そこから先制点を取ることがものすごく大事になる」と語る。

 左サイドの主力で、リーダー格の一人でもある松原后は、安間監督になって最初の練習前のミーティングを振り返る。「まずは守備の立て直しの部分。自分たちは8位という結果に対して、やっぱり守備がうまく機能していない。そこでインテンシティが下がってしまっていたりとか、守備の原則の部分。今の時代のフットボールを考えたら、やっぱりそこの原則ができていない時間帯やプレーが多く見受けられる、ということを言ってもらいました」。

 安間監督は守備だけでなく、ビルドアップでも問題点を見出していた。サイドバックがボールより低い位置で受けようとする傾向が、前向きなポジションでウイングの選手と絡んでいくようなシチュエーションを作りにくくしていること、それにより前の連動が生まれにくくなっていたことを認識していた。

 ジョルディ・クルークス(現・横浜F・マリノス)がいた時には、彼がボールを持てば攻撃の目が揃うトリガーになっていたが、そのクルークスも夏の移籍でいない今、連動しながら崩していくことは得点力の生命線になりうる。
 

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