まさかの苦境も乗り越えられるはず。小森飛絢の成り上がり人生。恩師が明かす浦和の新エース候補のルーツ

2025年08月17日 元川悦子

「ディテールを突き詰めていったのが、今に生きていますね」

名古屋戦で先制弾の小森だが、無念の負傷交代。早期復帰を願いたい。(C)SOCCER DIGEST

 6月のクラブ・ワールドカップ後の公式戦6試合を、4勝1分け1敗と力強い歩みを見せている浦和レッズ。天皇杯では準々決勝へと駒を進めており、J1も暫定首位・京都サンガF.C.に4ポイント差まで肉薄した。

 その原動力となっているのが、6月に加入した新戦力FW小森飛絢。J1と天皇杯を含めた直近の公式戦で5戦5発とハイペースでゴールを量産。浦和の貴重な得点源になっているのだ。

 8月16日の名古屋グランパス戦(2-1)でも開始早々の7分、マテウス・サヴィオのドリブル突破から受けた横パスを左足で一閃。値千金の先制弾を奪っている。このシュートは寄せてきた三國ケネディエブスに当たってコースが変わる幸運も重なったが、目の前にスペースがあると見るや、大胆にフィニッシュに持ち込める瞬時の判断力と嗅覚による部分が大きかった。

 その新エースFWが26分に右ふくらはぎ付近を痛めて交代を強いられたことは、マチェイ・スコルジャ監督にとっても大きな痛手に他ならない。次節は柏レイソルとの上位対決だ。「小森は重傷かもしれない、という状況です。ですので、現時点で柏戦に出られるかどうかはお答えできません」と指揮官も落胆の表情を浮かべていた。それだけ小森の存在感が急激に高まっているということでもある。

 本人も苦境に直面した形だが、この小森という男は紆余曲折のサッカー人生を歩んできたタフな男。目の前の困難を乗り越えられる強さを身につけている。

 そう太鼓判を押すのは、新潟医療福祉大学の佐熊裕和監督だ。桐光学園高校時代に中村俊輔を指導し、小川航基の発掘に携わった名将はこんな話をしていた。
 
「飛絢は富山第一高校の時からプロを目ざしていた選手。高卒段階ではオファーがなく、旧知の大塚一朗監督(現・浙江FC U-16監督)から『佐熊さんのところでどうですか』という話があって、ウチに来ることになりました。

 当時の飛絢は起用貧乏というのか、左右の足や頭でのシュート、ポストプレーやゲームメイクなど、フォワードに必要な仕事を平均的にできる選手でしたけど、特別なストロングがあるわけではない。むしろ左右のハーフやボランチでもできるような万能性が魅力で、実際に中盤でも使ったこともあります。

 そういうなかで、本人もすべての能力を引き上げつつ、決め切るところに磨きをかけて勝負していこうと考えたんじゃないかな。1年の時の4年に矢村健がいて、一緒に個人練習をするなかで良い刺激を受けたのも大きかったと思います。

 ヘディングシュート1つ取ってみても、178センチの彼はそこまでハイボールに勝てるわけじゃない。それでも決められるのは、落下点を予測し、敵の位置を見ながら駆け引きして、空いたスペースに飛び込めるから。健と一緒にやるなかで、そういうディテールを突き詰めていったのが、今に生きていますね」

 恩師が言うように、地道な努力を欠かさない選手だった小森。その結果、北信越サッカーリーグで3年連続得点王を獲得したが、4年になってもJ1クラブからのオファーは届かなかったという。
 

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