スペインを奈落の底に突き落とすダメ押し弾! 「アッズーリ史上最弱の9番」が見せた意地と心意気

2016年06月28日 白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)

先人たちに決定力、突破力、華とすべてで見劣りする。

ポストワークで基準点となれば、91分にハーフボレーでダメ押し弾。ペッレはスペイン撃破に大きく貢献した。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

「アッズーリ史上最弱の9番」
 
 EURO2016開幕前、イタリア代表のグラツィアーノ・ペッレは、そう揶揄されていた。たしかにかつてのクリスティアン・ヴィエリ、フィリッポ・インザーギ、ルカ・ト―ニ、そしてマリオ・バロテッリなどと比べれば、決定力、突破力、華とすべてで見劣りする。
 
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 セリエAでは花開かず、オランダのエールディビジとイングランドのプレミアリーグで実績を積み上げて29歳にしてA代表入りした叩き上げで、最大の持ち味は確度の高いポストワーク、そしてメジャートーナメントは初出場。そうしたキャリアやプレースタイル、実績も、期待値が低かった原因だろう。
 
 しかし、6月27日のラウンド・オブ16のスペイン戦。前回王者を奈落の底に突き落とす一撃を試合終了間際に叩き込んだのは、この9番だった。
 
 1-0で迎えた91分、前掛りになったスペインの裏を突いてカウンターを仕掛けたイタリア。右サイドのマッテオ・ダルミアンが上げたクロスが、ジェラール・ピケの足に当たり、ゴール前にこぼれる。ペッレはハーフボレーでこれを叩き、再三に渡ってビッグセーブを見せていたダビド・デ・ヘアの牙城を破った。
 
 試合終了間際のボレーによるダメ押し弾は、グループステージ1節のベルギー戦に続く2回目。そのベルギー戦と同じく個のクオリティー不足を埋めるためにメカニズムを重視する攻撃の核としても十二分に機能し、ヘディングや足での正確な落とし、ワンタッチの裏へのスルーパスなどでピケやセルヒオ・ラモスを苦しめる。献身的なプレッシングも相変わらずだった。
 
「とても幸せだ。ウイニングゴールは本当に素晴らしい。でも、一番嬉しいのは、チームを助けられたこと、みんなの犠牲が報われたことだ。僕たちはアタッカー、中盤、ディフェンスラインに分かれておらず、完全にひとつに団結している集団なんだ」
 
 試合後にはそう語った。批判の声にカウンターを食らわすパフォーマンスを見せながらも、自分よりもチームを強調するあたりが、いかにも苦労人のペッレらしいし、まさにこの精神こそが個より集団を重視するアントニオ・コンテ監督が彼に9番を託した最大の理由でもある。

 ここまで3試合出場で2ゴールを挙げ、ポストワークで数え切れないほどの決定機を作った。少なくとも、もう誰もペッレを「アッズーリ史上最弱の9番」とは呼ばないだろう。
 
現地取材・文:白鳥大知(サッカーダイジェスト特派)
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