ビハインドを背負っても動じない。立ち上がりに失点しても同点に追いつき、最後はPK戦を制して掴み取った世界への挑戦権。その裏にはロス五輪世代のカラーが色濃く映し出されていた。

　２月23日、U-20アジアカップに参戦しているU-20日本代表は準々決勝でイランと対戦。勝てばU-20ワールドカップの出場権を得られる。だが日本は開始５分に失点。警戒していた相手のパワフルな攻撃と止めきれなかった。

　それでも30分にMF小倉幸成（法政大）がミドルシュートを決めて、試合を振り出しに戻す。後半は持ち前のパスワークを武器に相手陣内に攻め込んだ。90分で決着がつかず、15分ハーフの延長戦でも勝負を決められなかったが、PK戦を４－３で制して、凱歌をあげた。

　この大一番でも、船越優蔵監督が率いる日本の選手たちは頼もしかった。キャプテンのCB市原吏音（大宮）はリーダーとしての重圧をわずかに感じていたものの、プレッシャーに潰されずに奮闘。他の選手も多少なりとも緊張していたとはいえ、緊迫した状況をエンジョイしようとしていた。

　右サイドハーフで120分間フル出場した佐藤龍之介（岡山）もこう話す。「負けたら終わりの舞台。そんな試合をやっているうちに、本当に楽しさしか感じなくなった」。PK戦前の円陣でも笑顔が見られたように、誰もが困難な展開を前向きに捉えるだけのハートを持ち合わせていた。
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　ボランチで先発した大関友翔（川崎）もそのひとり。「やってはいけない入り方をしてしまったのは事実」と反省の弁を述べたうえで、イラン戦での胸中を明かした。

「僕はそこまで緊張もしなかったし、何より楽しもうという思いがあった。負けたら自分の価値というか、日本のチームとしての価値はそこまで。勝てばこの先につながっていくし、すごく楽しくなる。そんな幸せな環境にいると思えた」

　実際のパフォーマンスでは、中盤の底で冷静にゲームを構築。相棒の小倉に潰し役を任せつつ、自らは積極的に高い位置を取って長短を織り交ぜたパスでリズムを生んだ。３列目から思い切った飛び出しも見せ、後半の半ばには華麗なターンから左足でゴールを強襲。惜しくも枠を外れたが、75分に交代するまで創造性豊かなプレーでチームを牽引した。

　ピッチを後にしてからはベンチで戦況を見守り、PK戦では「そこまで緊張はしてなかったんですけど、見てられなかった」と苦笑いを浮かべたが、不思議と負ける気はしなかったという。チームとして大一番を楽しめていたからこそで、大関をはじめとするロス五輪世代のポジティブなマインドが良い形で働いた。

　出場権を掴み、残された試合はあと２つ。アジアの頂点を目ざす戦いが残されており、大関自身も「自分自身まだ足りない部分が多い」と気を緩めない。それでも"楽しむ心"を忘れず、自然体で戦えるのが船越ジャパンの強みでもある。怖い物知らずの若武者たちの戦いから今後も目が離せない。

取材・文●松尾祐希（サッカーライター）

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