【熊本】36日ぶりのリーグ戦で見せた闘争心――。選手の足を動かした「3つの横断幕」

2016年05月16日 橋本啓(サッカーダイジェスト)

被災地でかけられた言葉が、選手たちの心を前へと動かす。

結果的に敗れたとはいえ、闘う姿勢を見せた熊本の選手たち。2トップの一角で先発した巻(36番)も、必死にボールを追った。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 熊本県でマグニチュード6.5の地震(前震)が発生してから約1か月。震災による傷跡が癒えない中、リーグ戦の一時中断を余儀なくされた熊本が再開初戦を迎えた。

【千葉2-0熊本 PHOTO】震災後、初の試合となった熊本は一丸となって戦うも、千葉に敗れる。

 4月9日の山口戦から36日ぶりとなったこの一戦を迎えるにあたり、複雑な想いはあった。いまだに多くの人々が避難生活を余儀なくされている現状に、選手たちの脳裏に「サッカーをやっている状況ではない」との想いが去来するのも無理はない。その半面、震災直後から物資支援、サッカー教室の開催等で選手たち自ら避難所を回るなか、県民から向けられる期待の眼差しや希望の大きさをひしひしと感じてもいた。
 
「こんな時だからこそ頑張ってほしい」、「勝って勇気を与えてください」。被災者たちからかけられたそんな言葉の数々が、選手たちの心を前へと動かし始める。
 
「サッカーで熊本を勇気づけよう」と決心した選手たちは、今月2日に練習を再開。清川浩行監督が「仕上がりは開幕前のキャンプ中ぐらいの状態」と言うようにコンディション面での不利を被ったものの、一度決めた想いは揺らがない。キャプテンの岡本賢明も選手たちの気持ちを代弁するようにこう話した。
 
「全員がこのゲームの意味を理解して、熊本を代表しているチームとしてサッカーで力を与えたいという思いがあったし、そういう気持ちを出していこうとみんなで言い合ってピッチに出ました」
 
 その言葉どおり、試合の立ち上がりは相手とのコンディションの差を感じさせないほど、選手たちは必死に闘った。エースナンバー「10」を背負う清武功暉がキレのあるドリブルでゴールに迫れば、CBの園田拓也、植田龍仁朗を中心とした守備陣も身体を張りながら千葉の攻撃を阻止。ハイボールに対し、必ず競り合いに挑んだ巻誠一郎をはじめ、誰ひとりとして闘わない者はいなかった。
 
 後半に入ると、「どこが攣っている分からないくらい、60分過ぎくらいから『やばいな』っていう感じだった」(清武)、「何度も足が止まりそうになった」(巻)というように運動量で明らかな差が見え始め2失点したが、その健闘がいかに素晴らしかったは、試合後に万雷の拍手がスタジアムに響いたことからも察せられるだろう。

次ページ「胸を張って熊本に帰って、もう一度準備をして次の試合に挑みたい」(巻)。

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