【連載】月刊マスコット批評vol.11「ロアッソくん」――地元が大変な時だからこそ

2016年05月13日 宇都宮徹壱

全国に向けて発信可能なマスコットは、もはやロアッソくんをおいてほかにいない。

3年前にある事件に巻き込まれたロアッソくん。今こそ地元に勇気と元気を与えたい。写真:宇都宮徹壱

ロアッソくん(ロアッソ熊本)
 
■ロアッソくんの評価(5段階)
 
・愛され度:4.0
・ご当地度:4.0
・パーソナリティ:3.5
・オリジナリティ:4.5
・ストーリー性:3.0
・発展性:4.0
 
 先月14日に発生した熊本と大分での地震は、その後も断続的な余震が止まらないまま、間もなく1か月となる。ロアッソ熊本もまた、今回の災害によって深刻な被害を受けたのは周知の通りだ。今季は第5節で、クラブ史上初となるJ2で首位に立ったものの、それから2連敗した後に地震が発生。以降、ホームとアウェー5試合が中止となり、熊本はまったく戦えないまま13位にまで後退した。
 
 5月15日の第13節のフクアリでの千葉戦から、ようやくリーグ戦に復帰するが、続く22日の第14節のホームゲーム(対水戸戦)の会場は日立柏サッカー場へ変更になった。現在、ホームスタジアムのうまスタは支援物資の中継地となっており、加えて施設の安全性も確認できないため、開催には今後もさまざまなハードルがありそうだ。
 
 こういう大変な時だからこそ、マスコットに活躍して欲しいと思っている。マスコットの存在意義は、単なるクラブのセールスプロモーションだけではない。サポーターを自認する人であれば、マスコットによって緊張した空気が和らいだり、ささくれた気分が癒やされたりした経験がきっとあるはずだ。
 
 そしてマスコットの活躍の場は、決してスタジアムだけにとどまらない。5年前の東日本大震災の際には、ある柏サポの漫画家が被災地のJクラブのマスコットをモチーフにしたイラストをSNS上に掲載し、不安と絶望に打ちひしがれていた全国のサッカーファンを大いに勇気づけた(ちなみに権利うんぬんについてとやかく言う人は、ほとんどいなかったと記憶する)。
 
 さて熊本県のマスコットといえば、くまモンを思い浮かべる人が圧倒的に多いだろう。くまモン人気は日本国内にとどまらず、台湾や香港や中国でも「くまモンを救え!」という掛け声とともに支援の輪が広がった。ところが当のくまモンは、地震発生後はしばらく行方不明。ようやく5月5日のこどもの日に被災地の保育園を慰問したことが報じられ、5月11日のU-23日本代表対ガーナ代表戦では募金活動を行なったが、ツイッターアカウントは4月14日以降、ずっと止まったままだ(5月13日現在)。こうした状況だからこそ、私はロアッソくんに期待している。それは彼が熊本のマスコットだから、という単純な理由からではない。
 
 今から3年前、ロアッソくんは心ないアウェーサポーターに首をもぎ取られるという「悲劇」に見舞われ、当該クラブ以外のサポーターを巻き込んでの大騒ぎになったことがある。それまでくまモンの影に隠れがちだったロアッソくんには、事件をきっかけにサポートクラブを越えた同情が集まり、サッカーファンの間では全国区の知名度を得るに至った。
 
 くまモンの活動が限定的となっている現在、被災地から全国に向けて発信可能なマスコットは、もはやロアッソくんをおいてほかにいない。世の中には「不謹慎狩り」なるものがはびこっているが、我々サッカーファンはロアッソくんの味方だ。ぜひ、被災地に勇気と元気を与える活動の先陣を切って欲しい。そして、くまモンがこれに続くことを密かに期待している。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
 
 
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