選手時代の20代後半から試合を俯瞰。念願のJ指揮官となった戸田和幸が進むべき道「熟考し、戦略を組み立て、どう戦うかの戦術に辿り着かないと」

2024年05月10日 元川悦子

トルシエにも自らの意見を堂々と口に

J2復帰を目ざす相模原で指揮を執る戸田監督。屈指の理論派であり、熱いパッションも魅力な47歳だ。写真提供:SC相模原

 赤髪モヒカン姿で2002年日韓ワールドカップの大舞台を戦ってから22年。喜怒哀楽を前面に出しながらタフに戦っていたボランチ戸田和幸が、クールで理論的なJ3指揮官へと変貌を遂げるとは、当時の関係者もサッカーファンも想像していなかっただろう。

「僕は選手だった20代後半の頃から、『この相手にはどう闘うべきか』『どう組み合わせると選手の特長はより発揮されるか』といったことに関心が強くなって、自分がプレーした試合もチーム対チームの視点で見るようになっていきました。

 1人の選手としてのパフォーマンスだけではなく、チームとしての機能性や相手チームとの噛み合わせといったところまで考えるようになってきた自分を見て、『将来的にはコーチの道に進むのかもしれないな』と思うようになっていきました。

 チームとしての戦い方の枠組みがないと、個々人が迷子になることもあるのがフットボール。選手の頃は自分が試合に出ること、できる限り良いパフォーマンスをすることを中心に考えていましたが、今は監督・マネジャーとして集団を動かす立場となり、『どうやって選手個々人を躍動させ、チームとして戦(いくさ)を闘い、勝利を手にすることができるのか』を考えることが僕の仕事です」と、戸田監督は若い頃から集団を動かし、戦いに挑むコーチ業を渇望していたことを明かす。

 実際、その舞台が2023年から正式に与えられたが、指揮官は戦いに勝つための術を自宅の書斎でも、クラブハウスの監督デスクでも、トレーニング・試合の映像を見ながら想像し、意見も聞きながら戦術やトレーニングについて模索し続けている。
 
「兵法じゃないですが、相模原軍が相手軍に勝つために、どれだけの兵力をどのタイミングでどこに投じれば良いのか、勝利を掴み取るために必要な作戦や人選はどんなものかと日々、考えてきていますし、そういったことは性に合っているような気がしています。

 たとえば、4月13日の福島(ユナイテッドFC)戦を振り返ると、中2日でのアウェーゲームを経てのデーゲームという非常に難しい環境下での戦いでした。FC岐阜からアスルクラロ沼津とフルでプレーした中盤より前の選手たちは、コンディションを考えると相当に厳しい。そこで、この試合は前2つの試合でプレーできなかったものの、信頼できるフレッシュな選手たちに託しました。

 福島さんはテクニカルな選手が非常に多く、中央からの前進・攻撃にこだわりを持っており、ショートパスを多用する。そういったスタイルの相手に対して、ピッチのどこにチームを置き、選手たちの強みを発揮させ、相手の強みを小さくしながら、我々として求めているもの、ボールや攻撃機会を得られるかを人選と作戦の両面から考え、思い切ってハイプレスに出る作戦を選びました。

 幸い選手たちが相手を上回る気迫とアクションを起こし続けてくれ勝利することができましたが、毎週、そういったことを考えて、全てを組み立てて試合に向かっています。

 ただ、全てはまだ起きてない未来の話なので、外れた時には批判も当然ながら出ることになりますが、それを恐れていたら自分らしさはなくなるし、新しいことには挑戦できない。

 たとえば、4月6日の岐阜戦では、いつも最終ラインでプレーしている水口(湧斗)を右ウイングバックで起用しました。理由は、その時に右でプレーしていた選手たちの状態が十分ではなかったのと、『水口はできる』と単純に僕が思ったからです。

 直前の練習試合で本人に意図を伝えたところ、了承してくれたので、試したうえで起用しましたが、実際、彼のヘディングで明確な決定機を作り、フォワードが決めてくれていたら勝っていた試合でした。

 人によっては唐突に感じると思いますが、選手のポテンシャルを引き出すためには先入観を捨てることと、チームが少しでも良い状態になれるために、ひらめいたことを大切に熟考します。

 僕は直感を信じる方。もちろん絵空事にならないよう十分検討はしますが、良いと思うことには躊躇なく踏み切れるところはありますね」と、戸田監督は大胆不敵でチャレンジングな一面を明かす。

 確かに選手時代も思い切ったアクションを起こすことはあった。日韓W杯の日本代表の指揮を執ったフィリップ・トルシエ監督に自らの意見を堂々と口にするなど、自分が「こうだ」と思うことは貫く人間だったのは確かだ。

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