【連載】月刊マスコット批評⑩「キングベルⅠ世」――「お爺ちゃん」だけどSNSの使い手

2016年04月11日 宇都宮徹壱

極めて稀有なポリシーを貫く。

モチーフはギリシャ神話の海の神であるポセイドン。ファンタジー性あふれるマスコットだ。写真:宇都宮徹壱

キングベルⅠ世(湘南ベルマーレ)
 
■キングベルⅠ世の評価(5段階)
 
・愛され度:4.5
・ご当地度:4.0
・パーソナリティ:4.0
・オリジナリティ:5.0
・ストーリー性:3.5
・発展性:3.5
 
 先月、50歳の誕生日を迎えた。あまり変わり映えのしないフリーランスの身ゆえ、自分の年齢にはあまり頓着しないタチであったが、さすがに50の大台に乗っかるとなにも考えないわけにはいかない。あと10年で還暦というのに、今もマスコットについて評論しているこの私。気がつけば、現役Jリーガーはもちろん、監督も年下ということが珍しくなくなった(そういえば、このほど70年代生まれのFIFAの会長が登場して、軽いめまいを覚えたものだ)。
 
 取材現場で、ピッチ上に年上がいないのは、やっぱり寂しい。それでもBMWスタジアムに行けば、今でも元気なお爺ちゃんに会うことができる。そう、湘南のマスコット、キングベルⅠ世だ。
 
 一人称は「ワシ」。でも、出身は広島ではなく、海の中(おそらくエーゲ海)。湘南は「ベルマーレ(ラテン語で美しい海)」をクラブ名としていることから、ギリシャ神話の海の神であるポセイドンをモチーフとしている(キングベルⅠ世が手にしている三叉の槍も、ポセイドンの武器『トリアイナ』に由来している)。
 
 余談ながらJクラブのマスコットでもう一体、ガンバボーイもまたギリシャ神話の主神であるゼウスをイメージして作られた(初期の設定ではギリシャ風のコスチュームだった)。ただし、両者のデザインコンセプトは大きく異なる。すなわち、ガンバボーイが「ゼウスの生まれ変わり」という少年の設定だったのに対して、キングベルⅠ世はポセイドンをそのままモテチーフにしており、白いひげを蓄えた老人の姿で描かれている。
 
 他のクラブのマスコットから「お爺ちゃん」と呼ばれるたびに「ワシは海を司る神なんじゃ!」と打ち消しに余念がないキングベルⅠ世だが、やっぱり「元気な爺さん」にしか見えない。
 
 しかもこの神は「高齢裸族」という、極めて稀有なポリシーを貫いている。多くのマスコットが、クラブのユニフォームを着ている中、キングベルⅠ世は何故かデビューから一貫して上半身ハダカ。Jクラブのマスコットでは、人型タイプは4体しかないが(今のところG大阪、湘南、柏、鳥取のみ)、高齢裸族で槍を振り回し、しかも「神」を自称しているキングベルⅠ世は、ちょっとヤバイ存在感を放っている。実在することが許されない、まさにファンタジー性あふれるマスコットと言えよう。
 
 キングベルⅠ世のもうひとつの特徴は、SNSの使い手であることだ。Twitterのフォロワーは1万1855人(4月9日現在)。しかもファンやサポーターに「みんなー」と呼びかけるのが、なんとも愛らしい。遠藤航の浦和移籍に際しては、少し感傷的になりながらも「ベルマーレは大丈夫。来年は今年を越えるよ、みんなの力で」。キングベルⅠ世ケーキが発売されると「みんなー、ワシの顔のケーキが出たぞ!要チェックじゃ!優しく食べてね!笑 」。お爺ちゃんのわりには、なかなかの発信力だ。
 
 そして、おちゃめなキングベルⅠ世のツイートに触れるたびに、不思議と老いへの恐怖心が薄れてくる。国民の4人にひとりが65歳以上となる我が国において、「元気で愛らしくてSNSを使いこなすお爺ちゃん」というキャラクター設定は、実は時代をかなり先取りしたものなのかもしれない。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
 
 
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