【移籍専門記者の裏話】アブラモビッチのコンテ招聘案に反対したヒディンク暫定監督。その裏にあった密約とは?

2016年04月06日 ジャンルカ・ディ・マルツィオ

現指揮官が優先したのは「心からのアドバイス」ではなく「自身の利益」だった。

ヒディンク(後方)にアブラモビッチ(手前)がチェルシーの暫定監督を託したのは2009年に続いて今シーズンが二度目。信頼しているのは間違いないが、今回の新監督選びに関しては……。(C)REUTERS/AFLO

 チェルシーのオーナー、ロマン・アブラモビッチには、折りに触れて助言を仰ぐご意見番たちがいる。アンドリー・シェフチェンコ(元チェルシーで元ウクライナ代表)、ヴラド・レミッチ、ファリ・ラマダーニ、ピニ・ザハビ(いずれもエージェント)、そして現暫定監督のフィース・ヒディンクという面々だ。
 
 新シーズンの指揮官選びに際しても、もちろん彼らに相談していた。そして、シェフチェンコやエージェントたちは、アントニオ・コンテ招聘に賛同。ご存知の通りチェルシーは4月4日、コンテと新シーズンから3年契約を結ぶと発表している。
 
 しかしただひとり、ヒディンクだけはコンテの次期監督就任に反対していた。アブラモビッチに対して、こんなことを進言していたという。
 
「コンテはやめたほうがいい。あまりにも神経質で気性が激しすぎる。ああいうタイプの監督は、スタンフォード・ブリッジのロッカールームには合わない」
 
 いまチームを率いている指揮官が、友人として心からのアドバイスを送ったのであれば、アブラモビッチも耳を傾けないわけにはいかなかっただろう。
 
 だが、このアドバイスには裏があった。ヒディンクの"お勧め"は、現在ウェストハムを率いるスラベン・ビリッチだった。同じく新監督候補に挙がっていたマッシミリアーノ・アッレグリ(ユベントス)でも、ホルヘ・サンパオリ(チリ代表監督を退任後、現在フリー)でも、そしてディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリー)でもない。
 
 なぜか? もしビリッチがチェルシーに招聘されれば、クラブにこう言わせる密約を事前に交わしていたからだ。
 
「ヒディンクをクラブに残してほしい」
 
 そう、手引きした見返りとしてヒディンクはテクニカルディレクター、あるいは監督に非常に近い立場にあるコンサルタントとして、チェルシーに残れる可能性があったのだ。
 
 しかし、結果が物語る通り、アブラモビッチはこの進言には釣られず、「私のファーストチョイスはコンテだ」という主張を押し通した。
 
 百戦錬磨の名監督が策略を巡らせてもなお、ロシア人オーナーの決意は揺るがなかったというわけだ。
 
文:ジャンルカ・ディ・マルツィオ
翻訳:片野道郎
 
※当コラムではディ・マルツィオ氏のオフィシャルサイトにも掲載されていない『サッカーダイジェストWEB』だけの独占記事をお届けします。
 
【著者プロフィール】
Gianluca DI MARZIO(ジャンルカ・ディ・マルツィオ)/1974年3月28日、ナポリ近郊の町に生まれる。パドバ大学在学中の94年に地元のTV局でキャリアをスタートし、2004年から『スカイ・イタリア』に所属する。元プロ監督で現コメンテーターの父ジャンニを通して得た人脈を活かして幅広いネットワークを築き、「移籍マーケットの専門記者」という独自のフィールドを開拓。この分野ではイタリアの第一人者で、2013年1月にグアルディオラのバイエルン入りをスクープしてからは、他の欧州諸国でも注目を集めている。
 
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