2トップを使う極意――インテルを率いるインザーギは珍しい“FW出身の名将”だ【コラム】

2024年03月04日 小宮良之

ストライカーというポジションを運用する術に長けている

インテルを巧みに操舵するインザーギ監督。(C)Getty Images

 昨年9月、サン・セバスティアン。イタリアの強豪インテル・ミラノが、久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)に襲い掛かるゲームを現地で取材した。

 チャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグの一戦、ゲーム内容自体はラ・レアルが優勢だった。ボールを持って、運ぶ、その精度で上回っていた。ホームの大歓声も背に、たびたび攻め込んでいたが…。

 敵地で1-1のドローという結果には、シモーネ・インザーギ監督が率いるインテルの老練さが見えた。好調とは言えなかったが、最悪までは追い込まれない"したたかさ"というのか。昨シーズン、CLでファイナリストになっただけのことはあった。

 イタリア伝統の守備の屈強さだけではなく、インザーギ監督はもともとFWだっただけに、ストライカーというポジションを運用する術に長けている。基本はツートップだが、その組み合わせの見極めやバリエーションがひと際目立つ。ラウタロ・マルティネスを中心に、マルキュス・テュラム、マルコ・アルナウトビッチ、アレクシス・サンチェスを自在に操る。

 CLラウンド16、アトレティコ・マドリーとのファーストレグも、その典型だった。前半からラウタロとテュラムの2トップが"ボールを狩る"という動きから、ショートカウンターをたびたび発動。奪い返した後のボールの通路や彼らの走るルートは整備されたもので、反転的攻撃力は敵に脅威を与えていた。セカンドボールを拾ってのミドルまで攻撃がつながっていて、これはGKヤン・オブラクに防がれたが…。
 
 後半、ケガをしたテュラムに代わって入ったFWアルナウトビッチも、継続して2トップのアドバンテージを作っていた。自陣で味方がプレスを回避し、つなげたボールをラウタロが展開すると、左サイドからのクロスにアルナウトビッチがボレーで飛び込み、わずかにバーの上へ外れた。さらにアルナウトビッチはラウタロとのワンツーから決定的なシュートを放った。左右からのクロスを含め、2トップが襲い掛かったのだ。

 そして79分、スローインからヘディングで前にボールを押し出そうとする応酬の中、アトレティコの選手がわずかにもたついたところをインテルの選手が突き出す。そのボールを受けたラウタロが敵ゴールへ持ち込んだシュートはGKにブロックされたが、しつこく走り込んでいたアルナウトビッチが押し込んでいる。
【動画】アルナウトビッチが決めたCLアトレティコ戦の決勝弾
 2トップの波状攻撃だった。

 最後はインザーギ監督がラウタロに代え、A・サンチェスを投入。前線からの守備やキープで時間を稼ぎ、1-0で勝利をもたらした。

「2トップを使う極意」

 インザーギ監督は、その術式において「FW出身の珍しい名将」として名乗りを上げている。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

【動画】「クボがあまりに個人主義的だと非難する声がある」久保建英への批判に地元紙が異論!「この天才は1試合に3つ以上の願いを叶えてくれる」「だから誰もがパスを出す」
 

次ページ【動画】CLアトレティコ戦の決勝弾

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事