連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】守りながら威圧する「小倉ンパス」のしたたかさ

2016年03月13日 熊崎敬

カウンターで攻め返した名古屋には怖さがあった。

就任1年目の新米指揮官ながら、小倉監督はチームが持つ武器を有効に組み合わせ、確実にポイントを取る現実的なスタイルを確立しようとしている。 (C) SOCCER DIGEST

 取って取られて、また取って――。
 5ゴールが飛び交った等々力での一戦は、折からの寒さを忘れさせる大熱戦だった。

【J1 PHOTOハイライト】川崎 3-2 名古屋

 ゲームが白熱したのは、異なるスタイルを持つチームが互いに持ち味を出したからだ。
 
 川崎が緩急をつけた巧みなショートパスの応酬で名古屋ゴールを脅かせば、押し込まれた名古屋もボールを奪うたびに、スピードと高さを生かしたカウンターで攻め返す。
 
 攻守が表裏一体となっているサッカーは、攻めているときほど守りに気を払い、守っているときほど攻めの準備をするような抜け目のなさが求められる。
 
 その意味で、防戦一方となった名古屋はつねに切り返しの瞬間を狙っているような怖さがあった。
 
 敵からボールを奪い取った瞬間、シモビッチに当てれば、この巨漢ストライカーは確実にボールを収め、つないでくれる。このボールを拾えば、永井が快足を飛ばしてスペースに走り出しているのだ。
 
 ヘディングが強く、ポストプレーの安定したシモビッチがいて、俊足の永井がいる。
 圧倒的な武器を持つふたりがいることで、名古屋はいつどんなところからでもゴールを狙うことができるようになった。これは精神的にも大きいはずだ。ゴールの希望があることで、猛攻にさらされても持ち堪えることができるからだ。
 敵に与える重圧も大きいはずだ。圧倒的に攻めていた川崎も、ちょっとしたミスが命取りになるというプレッシャーを感じていたと思う。
 
 この試合では、永井が随所に好プレーを見せた。
 シモビッチと組むことで、彼はひと皮むけるかもしれない。
 いままではチーム戦術が確立されていなかったため、スピードを効率よく生かすことができなかったが、シモビッチが加わったことで持ち味を生かす形が明確になった。
 
 カウンター以外にも、随所に巧さも見せた。
 63分には中央に切れ込んで鮮やかなミドルを決め、70分には無効とされたが一発のフェイントで敵を外し、決定的な一撃を見舞った。
 変わり始めた名古屋の中で、永井はきっかけをつかみかけているのかもしれない。
 
 試合後、威力のあるカウンターと終盤の高さを生かした攻撃について問われた小倉監督は、「それだけをやろうとしているわけではないが、プロとしては結果を求められる。(始動から)2か月ちょっとでいろんな形を織り交ぜるのは、新米監督の僕ではちょっと時間が足りない」と語った。
 
 理想のサッカーがピッチに描かれるようになるには、時間がかかるかもしれない。だが小倉監督は、チームが持つ武器を有効に組み合わせ、確実にポイントを取る現実的なスタイルを確立しようとしている。
 開幕前は降格候補のひとつに挙げられていたが、その声も気がつけば聞かれなくなるだろう。
 
取材・文:熊崎敬
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