【仙台】“3.11”から5年――特別な一戦で勝利を掴んだ「復興のシンボル」はまだまだ強くなる

2016年03月12日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

いつも以上に“気持ち”が見えた試合で勝点3を掴み取る。

横浜との開幕戦同様、1点リードで迎えた後半は劣勢を強いられたが、この日もチーム一丸となって守り抜いた。“勝ち切る力”は着実に付いてきている。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 試合後、仙台のあるスタッフが、右の拳で自らの左胸を軽く叩きながら、笑顔を見せる。
 
「今日は、特に"ここ"が見えた試合だったね」
 
 2011年3月11日に起こった東日本大震災から5年――。同じ被災地である鹿島をホームに迎えた一戦で、仙台は金久保の1点を守り切り、今季2勝目を挙げた。キックオフ前には黙とうが捧げられたこの特別な試合で、チーム全員が一丸となり、勝利を掴み取った。
 
 球際で激しさを見せ、粘り強く相手からボールを奪いまくった主将の富田は言う。
 
「対戦相手だったり、日付(3月12日)だったり、本当に意味のある試合だと思った。自分たちにできることは、勝つことが一番。そこはこだわっていたし、勝つことに加えて、闘う姿勢を見せられた試合だったかな、と」
 
 もちろん、他の試合で気持ちが入っていないわけではない。それでも、"あの日"から復興のために戦い続けてきたクラブとしては、負けるわけにはいかない、心に響くような戦いを示さなければいけないゲームだったとは思う。
 
 その意味では、この日の仙台は期待に応えてみせた。富田の言葉どおりの試合内容で、気持ちを前面に押し出して、勝利への執念を見せる。
 
 とりわけボランチの富田は中盤の深い位置で奮闘し、中盤の攻防で際立った活躍を披露していた。その富田自身のハイパフォーマンスについて聞くと、言葉の端々から、チームメイトやスタッフ陣への感謝の想いが滲み出ていた。
 
「前の選手の追い込みだったり、そういうのがあってこそ、ボールを奪えたり、カットできている部分はある」
「チームの力というか、1試合にかけるスカウティングやミーティングを通じての戦術の分析とか、その結果だと思う。そのなかで、自分の持ち味をどう出せるか」
 
 選手個々でそれぞれ想うところのあるゲームだったはずだ。そのうえで、組織としての一体感が強い絆を生み出した、メッセージ性の強い勝点3だった。
 
 開幕戦で横浜を下し、続くFC東京戦は黒星を喫したものの、この鹿島戦で再び、勝利を飾り、悪い流れを断ち切った。
 
 序盤からハイプレスを仕掛け、守備でリズムを掴みながら、狙いどおりに先制点を奪う。1点リードで迎えた後半は、「ある程度、相手が前掛かりに出てくるのは予想していた」(梁)なか、割り切って守備を固め、手数をかけずにカウンターを繰り出す戦いがハマる。梁も「久しぶりに自分たちの良さを出せた」と手応えを口にした。
 
 前半にリードを奪い、後半は押し込まれながらも守り切るというゲーム内容は、1-0で勝利した横浜との開幕戦とほぼ同じだった。もっとも、横浜戦と比べてれば防戦一方というわけではなかったし、「マリノス戦と違ったのは、フィニッシュまで行く回数は多かったし、奪った後の攻撃は良かった」と梁も攻撃面での進化に言及する。
 
 だからこそ、"追加点"という課題も克服したかったところだ。耐え切る力は徐々に付いてきている一方で、2点目を奪えれば、チームにもさらに余裕が生まれて、戦い方の幅も広がっていくに違いない。
 
 開幕3試合を終えて、2勝1敗とまずまずのスタートを切れている。「今日の戦いをベースに」(梁)、足りない部分を確実に埋めていく作業を地道に続けていくことで、揺るぎない強さを手に入れたい。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
 
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