「現役時代から監督の視点でプレーしていた」なぜシャビ・アロンソは42歳にして“名将”になりえたのか。翻って、日本の指揮官は荒野で生きられるか【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2023年12月26日 小宮良之

1年でUEFAコーチングライセンスを取得

レバークーゼンを快進撃に導いているシャビ・アロンソ監督。(C)Getty Images

 今シーズン、ヨーロッパ各国リーグで伏兵が台頭している。
 
 プレミアリーグではブライトン、ラ・リーガではジローナ、セリエAではボローニャ。共通しているのは、どのクラブの監督も四十代と比較的若い点にあるだろう。ブライトンのロベルト・デ・ゼルビは44歳、ジローナのミチェルは48歳、ボローニャのチアゴ・モッタは41歳だ。

 中でも目を引くのは、ブンデスリーガのレバークーゼンだろう。今シーズンは、公式戦で無敗。ブンデスでは王者バイエルン・ミュンヘンを抑えて首位に立ち、ヨーロッパリーグも6戦全勝と破竹の勢いだ。

 直近、グループリーグ最終節ではノルウェー王者のモルデを5-1と叩きのめした。陣容は1軍半だったが、鎧袖一触。それは選手個人の能力で勝っているわけではなく、チームとしての仕組みが確立され、その中で選手が良さを出している証左だった。

 選手はプレーに対してほとんど迷いがないほど、戦術的に鍛えられている。プレスではめた時、わずかなミスに素早く反応し、そこからの連動でも先手を打てる。モルデ戦の先制点は典型だった。ボランチのロベルト・アンドリッヒが敵陣でパスをインターセプト、間髪入れずに縦パスを通した時、FWパトリック・シックはゴールへの道筋を見つけたようにシュートを打ちこんでいた。

 パスが入った瞬間、必ずポジションで上回っている、もしくは動き出す選手がいるだけに敵を撹乱。とはいっても、急ぎ過ぎて精度を落とすこともない。各ポジションの選手が局面で優位性を持ち、左右からの揺さぶりで守備を崩す。クロスに対しては、その軌道上に二人三人と入ることで得点の確率を上げ、必然で敵を打ち破っている。

 チームを率いる監督が、スペイン人シャビ・アロンソだ。
【画像】シャビ・アロンソが監督就任?現地メディアが予想したマドリーの来季スタメン
 シャビ・アロンソは42歳と若いが、名将の風格はすでに十分だろう。三十代で現役引退後、1年でUEFAコーチングライセンスを取得。レアル・マドリードのU-14監督を1年務めた後(無敗優勝を達成した)、レアル・ソシエダのBチームを率い、歴史的な2部昇格に導いた。有力選手を瞬く間に育て上げ、いきなり結果を叩き出した。

 そこで、レアル・ソシエダBを率いていたシャビ・アロンソに訊いたことがあった。

――その若さで経験もなく、どうやってチームを率いたのか?

 彼は明瞭に答えた。

「現役時代から監督の視点でプレーしていたから、準備はできていた。子供の時から、何が必要か、ずっと考えてきた。結局、監督は自分のパーソナリティが大事」

 日本ではS級ライセンスを取得するのにさえ、コーチをやりながらだと10年かかるのも珍しいことではない。まるで丁稚奉公。監督は、誰かに何かを教えてもらってなる職業ではない。

 たった一人、荒野でチームを率いて生き残っていける気概と知性のある指揮官が高みに辿り着くのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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