マドリーで躍動するベリンガムに感じるドルトムント時代との“違い”。重鎮コンビの影響は大きい【現地発コラム】

2023年12月16日 中野吉之伴

あらゆることをやろうとして常に走り回っていた

CLウニオン・ベルリン戦では決勝点をアシストしたベリンガム。(C)Getty Images

 レアル・マドリーは、ヨーロッパリーグ(EL)プレーオフ進出の可能性を残すウニオン・ベルリンの組織だったダイナミックな守備に苦戦しながらも、3-2で逆転勝ち。チャンピオンズリーグ(CL)グループステージを、貫禄の6戦6勝で終えた。

 この試合に勝つしかないウニオンの鬼気迫るアプローチの連続はかなりの迫力があったが、そんな中でも焦ることなく次々に違いを生み出すプレーを連発していたのがイングランド代表MFジュード・ベリンガムだ。

 エレガントにボールを収め、味方選手を巧みに使うことで状況をよくしていく。それこそ昨シーズンまで所属していたドルトムント時代のプレーと比較してみると、様々な変化と進化が見てとれた。

 例えば10分、センターのポジションでじっと状況を待っていたベリンガムがスッと右ハーフスペースの守備ライン裏スペースへ抜け出してシュートへと持ち込んだシーン。味方選手がパスを出せる状況とタイミングで鋭く動き出すので、厳重にケアしていたはずのウニオンも対処しきれない。

 12分にも中盤からドリブルで持ち上がって左へさばくと、エリア内でシュートへ持ち込めるポジションで次のパスをじっと待つ。ダイレクトシュートは枠外も、ポジショニングと1タッチプレーで危険なシーンを一つ作り出していた。

【動画】ウニオン戦でベリンガムが決勝点をアシスト
 ドルトムント時代との大きな違いがここにある。当時は1人であらゆることをやろうとして攻守に常に走り回っていた。常にボールを受けようともらいにいっていた。ボールを持ったら一人でも相手を外して状況をよくしようと無理をしていた。でもそこでの頑張りが、必ずしもチームにとって大きな効果を持ち続けるわけではない。

 マドリーでは、役割分担がより明確で、タイミングよく、危険なスペースに動いたらパスが出てくるという確信を常に持っているから、一つ一つの動きが怖い。そしているべきところで待っているからパスがくる。どこで受けたら、どこに出したら、ゴールになるのかを身に付けているのだろう。相手が守れないところへパスを繰り出し、ドリブルでボールを運び、スペースに入り込んでシュートへと持ち込む。

 55分には右ハーフスペースからゴール前にこれ以上ないクロス。ロドリのヘディングシュートはGKフレデリク・レノウの驚きのセーブで防がれはしたが、あまりに見事なおぜん立てにウニオンファンからもどよめきが生まれていた。

 どうすれば自分の特徴を出し切れるのか、どんなプレーが相手にとって脅威になるのかが整理されている。カルロ・アンチェロッティのすごさを感じさせられる。

 だからと言って、ドルトムント時代にそうした気の利いたプレーばかりをしようとしていたら、今のベリンガムもなかったはず。19歳でキャプテンをつとめ、責任を両肩に背負い、自分が違いを生み出すことに全力を尽くそうとした経験が、今へとつながっている。がむしゃらにギアを入れ続けて戦う時代があることも大事なのだ。メッシだってユース時代は守備でものすごく走っていた。
 

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