ウルトラスを排除し、ラ・リーガの強豪へ。ビジャレアルの成功例に見る悪辣なサポーターとの関わり方【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2023年12月11日 小宮良之

女性と子供が楽しめるスタジアム環境を目指した

ビジャレアルではかつて久保建英(手前)もプレーした。(C)Getty Images

 今年8月、浦和レッズのサポーターが、ピッチに乱入するという事件があった。相手サポーターが陣取る席まで、100人前後が肉迫。死傷者などは出していないが、暴力行為が確認されたという。

 Jリーグのクラブの多くが、一部サポーターの横暴に手を焼いている。ここまで暴力が表面化するケースはまだまれだが、聞くに堪えないような野次やSNSでの誹謗中傷は常習化。憂慮すべき事態になっている。

 改めてサポーターとは何者なのか?

 応援している、というので、何でも許されるはずはない。プレーを観戦する。そこに基本はあるはずで、熱気と暴力は違う。

 今やスペインの強豪の一つに数えられるようになったビジャレアルは、1997年に会長に就任したフェルナンド・ロッチが、サポーターに関してドラスティックな手を打っている。

「ウルトラス(過激サポーター)を排除する」

 ロッチ会長は、断固として路線を決めた。ウルトラスがいることで、相手チームに脅威を与え、独特のムードも作り出せるため、当時は多くのクラブがなかなか踏み込めなかった。しかし暴力的な集団がいることで、一般人に近づきがたい場所になるのを避けることにした。率先して、女性と子供が楽しめるスタジアム環境を目指したのだ

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 ロッチは、世界なタイルメーカーの経営者として知られる。実業家として国際的な成功を収めていただけに慧眼があった。会社の工場があったビジャレアルで、地元に還元したい、という思いも強かった。

 そもそも、ロッチファミリーは地元との絆を通じて大きくなってきた。例えば、ファミリー経営の『メルカドーナ』というスーパーマーケットは、社員を厚く扱い、サービスをモットーにした経営が好感を持たれるようになり、外国資本のスーパーに負けない勢力を持つようになった。とりわけ女性や子供の立場になったサービスで(当時は画期的だった女性社員に妊婦休暇を与えるなど)、支持を得た。

 ロッチは、同じ論理をサッカークラブとしても取り入れたと言える。声は弱くても、一般の人を招いた。好き勝手に騒いで、物を壊し、人を威嚇し、はては暴力を振るい、我が物顔でクラブのイメージを傷つける人間に価値を与えなかった。結果、人口約4万人の町で、2万3000人収容のマドリガルスタジアムの席が埋まる。女子供も足を運ぶからだ。

 ロッチが会長に就任するまで、1部の舞台に立ったことがなかったクラブは、今や常にラ・リーガで上位を争う。チャンピオンズリーグでベスト4に進出し、ヨーロッパリーグで優勝している。

 クラブが悪辣なサポーターとどう対峙すべきか。

 その答えははっきりしている。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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