【岩本輝雄】僕が見た中で最も内容が良くなかったフロンターレ。天皇杯優勝はチョン・ソンリョンのおかげ。でもMVPはレイソルの10番だ

2023年12月09日 岩本輝雄

命運を分けたかもしれない細谷のワンプレー

別格の輝きを放っていたマテウス。これぞ助っ人というハイパフォーマンスだったね。(C)SOCCER DIGEST

 フロンターレとレイソルの天皇杯決勝。凄い試合だったね。延長まで戦って0-0。点は入らなかったけど、見応えは十分だった。PK戦もお互いに譲らず、10人目までもつれ込んだ。最後はフロンターレのGKチョン・ソンリョンが決めて、止めて、決着がついた。

 チョン・ソンリョンは延長の前半にも、細谷との1対1でビッグセーブを連発。まさに守護神という活躍ぶりで、優勝に大きく貢献した。この試合のMVPだとしても納得だけど、僕が選ぶなら、レイソルの10番かな。

 ピッチ上にいる22人の中で、マテウス・サヴィオは1人だけ格が違っていた。ボールを持てば、常に何かしそうな雰囲気を醸し出す。キレキレのドリブルで難なく敵をかわすし、ペナ付近では自らシュートに持ち込めば、周りをよく見て正確なラストパスを通す。

 プレーのクオリティが、延長戦に入ってもまったく落ちなかったのも凄い。コーナーキックなどセットプレーでも可能性を感じさせたし、PK戦ではプレッシャーのかかる1人目でしっかりと成功させて、チームを勢いづかせる。見ていてワクワクさせてくれるプレーヤーだよ。

 試合内容では、完全にレイソルが上回っていたね。やっていることはシンプルだけど、全員が今、何をすべきかが共有されていて、迷いがないし、完成度も高い。

 長めのパスを入れて、ボールを収められる細谷や山田が起点となる。そこで詰まっても、空いたスペースをマテウスが上手く使って、2次攻撃を繰り出す。

 守備はコンパクトで、ライン設定や選手同士の距離間も絶妙。攻守の切り替えも早くて、奪いに行く強度が高い。現役時代は"アジアの壁"と言われた元日本代表DF井原さんの手腕が、この試合でも存分に伝わってきた。

 あとは、細谷がチャンスを決めていれば、という感じだった。後半の途中に、相手ディフェンダーにファウルっぽいチャージで倒されそうになったけど、粘ってそのまま前進。「倒れろ!」と思ったけど、パワフルで細谷らしいとも思った。まあ、もしかしたら命運を分けるワンプレーだったかもしれないね。
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 一方のフロンターレは...優勝はしたけど、物足りなさは否めない。今シーズン、フロンターレの試合をいくつか現地で見たけど、僕の中では、今日のレイソル戦が一番、内容が悪かったという印象だ。

 流れを掴めていたのは、後半の最初のほうと、小林が途中出場した時ぐらいかな。それ以外は、自分たちのやりたいサッカーをほとんどできていなかったと思う。

 ポゼッションで優位に立って、パスワークのテンポも良い。でも、厳しい言い方をすれば、"それだけ"だった。ボールを動かせるけど、ゴールを奪う怖さに欠ける。レイソルの守備が良かった部分もあるんだろうけど、以前のような圧倒的な強さが、この日も感じられなかった。

 それでもタイトルを掴めたのは、繰り返しになるけど、チョン・ソンリョンのおかげ。その意味では、マテウスも含めて、助っ人の存在感が際立つファイナルだったね。

【著者プロフィール】
岩本輝雄(いわもと・てるお)/1972年5月2日、51歳。神奈川県横浜市出身。現役時代はフジタ/平塚、京都、川崎、V川崎、仙台、名古屋でプレー。仙台時代に決めた"40メートルFK弾"は今も語り草に。元日本代表10番。引退後は解説者や指導者として活躍。「フットボールトラベラー」の肩書で、欧州CLから地元の高校サッカーまで、ジャンル・カテゴリーを問わずフットボールを研究する日々を過ごす。

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