ACLのMVPは「仲間に感謝する賞」。柏木陽介が思い描いてきた選手像「自分が輝かせてもらったし、みんなを輝かせることができた」

2023年12月06日 郡司 聡

83分に交代。スタンドからは万雷の拍手

18年のプロ生活に幕を下ろした柏木。現役ラストマッチの自己採点は「6.5」。写真:郡司聡

 拾って奪って配球し、オフ・ザ・ボールの状況では、献身的なフリーランもいとわない。縦横無尽にピッチを駆け回る姿は、ピーク時の柏木陽介を彷彿とさせた。

 12月2日開催の今季最終戦にあたるホームでの北九州戦は、柏木にとっての"現役ラストダンス"。最大の見せ場は62分に訪れた。

 岐阜が右サイドの"ペナ角"で獲得した直接FKの場面。ゴールを直接狙える距離と角度だったため、柏木は思い切って自慢の左足を振り抜いた。

 ところが、渾身の左足シュートはゴールの枠外へ。従来のプレースキッカーである庄司悦大に「お願いをして」キッカーを譲ってもらっただけに、柏木は「しょーもないキックだった」とシュートの軌道を残念がった。

 さすがに後半の柏木は運動量も次第に低下し、ボールに関わるプレー機会も減少。「相手に圧力を掛けられてビルドアップも難しくなったし、徐々に疲れてきた」柏木は83分、ベンチから選手交代を告げられた。

 岐阜メモリアルセンター長良川競技場のピッチを去る際、柏木は庄司からの「粋な計らい」で巻いていた左腕のキャプテンマークをその庄司に託し、現役最後のピッチを後にした。

 現役ラストダンスでは83分間ピッチに立ち、シュートはチーム最多の3本を記録。現役生活に幕を閉じた柏木がベンチに下がる途中、長良川のスタンドからは万雷の拍手が注がれていた。
 
「思い描く理想のプレーを最後まで追い求めてやったので、悔いはありません」と試合後に話した柏木は、現役最後の公式戦を「(10点満点中の)6.5」と自己採点。また「存分に楽しみながらやれることはやった」という岐阜の42番は、とても晴れやかな表情をしていた。

 北九州戦の3日後、岐阜市内で引退記者会見に臨んだ柏木の表情も、現役最後の日と何ら変わらなかった。会見の席に着いた柏木が現役引退の決め手について、改めてこう口を開いた。

「昨年、アキレス腱断裂の大怪我があって、その時に現役をやれてもあと1年ぐらいじゃないかなというのは感じていました。そのなかで正直、現代サッカーのテンポやフィジカル、強度に対して、自分はもう去っていくタイミングなのかなということも感じていました。

 身体が動かなくなったとか、走れなくなったという感覚はなかったですが、ちょっと負傷しがちな身体になっていっていたことも、現役引退を決める1つの要因になりました」

 プロサッカー人生18年で手にしたチームタイトルは、浦和在籍時の天皇杯やルヴァンカップ、そしてアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)と数多い。ただ1つ、手にしていないタイトルがJリーグ制覇だ。

 ちなみに2ステージ制だった2016シーズンに浦和は年間最多勝点を獲得しているが、鹿島とのチャンピオンシップに敗れたため、年間王座を逃してしまった。それでも、柏木はこう自負している。

「(16年の)年間勝点1位が、自分の中では優勝だったと思っている。自分の中では勝手にリーグタイトルを獲った気でいます」

【動画】その左足をプレイバック!柏木陽介プレー集
 

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