【大宮】守り切った先の勝点3。だが、明らかに質の違う“忍耐”がピッチにあった

2016年02月29日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

躊躇ない戦術変更。能動的な割り切りが、14シーズンとの変化を示している。

要所で猛烈なプレスバックを見せた家長。割り切って戦い方を変えたなかで、彼もその役割を全うしていた。写真:徳原隆元

 耐え切った。術中にハメた1-0だったわけではない。押し込まれ、何度もピンチを迎え、自チームの倍となる14本ものシュートを浴びた。それでも、ハードワークと粘り強さを下地に、守備ブロックを崩すことなく、アウェーで昨季のJ1年間4位から勝点3をもぎ取ってみせた。
 
「やりたいことが全然できなかった」(河本)と、チームが掲げる"攻守に主導権を握る"サッカーはできなかった。強者相手に引いてブロックを作り、守って、守って、守り切る。大雑把に内容を語るのであれば、J2に降格した2014シーズン以前と変化がないようにも見える。しかし、細部は大きく異なっていた。
 
 第一に、自陣にこもることを前提としていなかったこと。時間が経つにつれてボールロストの回数が増加してポゼッション率は低下したが、20分までは攻守両面で「スタートからアクティブにいけた」(渋谷監督)。1年で戻ったJ1という舞台で、まずはJ2で築いたスタイルを貫こうとした点は、"残留争いの常連"のレッテルを剥がすに値するものだった。
 
 第二に、苦しい展開でも焦らず、選手間で意思疎通を図りながら戦い方の転換をしたこと。「変なミスもなく、単に相手が上手かった」(横山)のを認め、「(スタート時と比べて)ズルズル下がるのも仕方ない」(横山)と割り切った。焦れることなく、コンパクトさを保ち続け、我慢する。「クロスで対応すればいい」(菊地)という共通認識があれば、やられていいゾーンと自由を与えてはいけないゾーンもはっきりする。
 
 また、前半の早い段階でゴールキックからのつなぎも諦めた。J2とはスピードも精度も違うプレスに対して、外せないと見るや、より手堅い手法に切り替えた。追い詰められたのではなく、あくまでも能動的。その他の細かな修正点を含めて、今の自分たちが勝点を掴むために最適な方法をピッチで共有して、実践したのだ。
 
 そして第三に、メンタル面で飲み込まれなかったこと。浮き足立つ要素は試合開始前も試合中も、多々あった。昇格組の磐田と福岡は破れ、やはりJ1の壁を感じさせた。味の素スタジアムを染めた青赤のサポーターからのプレッシャーも強烈だった。J2で構築した自分たちのサッカーが、レベルの高い相手を前にしてできなかった。
 
 それでも、折れなかった。「前の選手がきちんとプレスバックしてくれて、最終ラインの高さをある程度の位置でキープできればそんなに運ばれることもない」(河本)、「ラインをコントロールして下げ過ぎないようにした。得点を奪ったあとも引くのではなく、そのまま保ってプレーするとピッチ内で話していた」(菊地)。言葉の端々から、我慢と割り切りの重要性、そして自身と相手、両方と向き合って戦っていた様が伝わってくる。
 
 もちろん、14年の降格時と比べてタフになれたとはいえ、すべてが良かったのかと問われれば"否"だ。「正直、あんまり嬉しくない部分もある」(河本)のも素直に頷けてしまう人も多いだろう。だが、確かに成長の足跡を残した。他からすれば小さな一歩かもしれないが、大宮にとっては大きな一歩。まずは1勝。アウェーの地に、サポーターの歓喜の声を響かせてみせた。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
 
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