「小川航基劇場だ!」圧巻2発の日本人ストライカーがオランダで示す“豪胆にして繊細な思考”。そして“チーム日本”への熱き想い【現地発】

2023年11月07日 中田徹

PKの場面、過去の苦い記憶がよぎる。「ボールを離さなかったんですが…」

劇的な同点弾に雄叫びを上げる小川。ホームスタジアムは熱狂のるつぼと化した。(C)Getty Images

 2ゴール、そしてマン・オブ・ザ・マッチ。思わず「小川航基劇場だ!」と叫びたくなるほど11月5日のNEC対フォレンダム(3-3)で、NECの日本人ストライカーが存在感を示した。

 開始2分に敵DFライン裏への動き出しから味方のスルーパスを引き出し、スライディングシュートで先制弾を挙げた小川は、22分にも右45度からGK長田澪(ミオ・バックハウス)の肩口を豪快にぶち抜いて追加点を決めたかに思われたが、これはVARのオフサイド判定でゴールを取り消されてしまった。
【動画】NEC小川航基が後半ATに劇的ヘッドで同点! 大歓声に揺れるスタジアムに咆哮が轟く!

 38分に退場者が出たことでNECは守勢に回りチャンスが激減した。しかしチームの好機が減っても、敵ゴール前で航基が怖さを見せた。72分、左からのクロスに小川はヘディングシュートを撃つと見せかけて胸トラップ。敵がひしめく狭いスペースをフェイントで打開してから、強烈な左足シュートを放ったものの、ゴールライン手前に立ったDFに防がれてしまった。

 後半アディショナルタイム6分に、フォレンダムのカルビン・トゥイフトにFKを直接決められ2-3とされ、NECは絶体絶命のピンチに陥った。しかしその2分後のラストプレーで、小川はCKをヘッドで合わせて劇的な同点ゴールを決めた。ピッチの中を咆哮しながら駆ける小川。そしてスタジアムは熱狂の坩堝と化した。

 チームを救う3-3の同点弾を小川はこう振り返る。

「キーパー(シレッセン)が上がって来て、ちょっと僕に対するマークが甘かったんですよ。自分にマークが付いていると、ボールの動きよりもそれを外す動きに集中しちゃうんですけれど、僕にマークが付かなったので、しっかりボールを見極めることができ、自分のステップをしっかり踏んで落下地点に入りました」

 オランダリーグ史上初めて、後半のアディショナルタイムに3ゴールが乱れ飛んだ。その始めはアディショナルタイム1分にNECがPKを奪ったところから。小川は「蹴るのは俺だ!」と言わんばかりにPKキッカーのマッツォンにボールをなかなか渡さなかったが、ナイティンク主将の指示に従い、蹴るのを諦めた。
 
 チーム内でPKキッカーは決まっていた。「でも俺が蹴りたいということで、ボールを離さなかったんですが…」と言ってから、小川は年代別日本代表チームでの経験を話してくれた。小川が「ドイツ遠征。相手のGKは横浜FCで一緒だったブローダーセン(当時ザンクトパウリ)」と言ったから、2017年3月28日のU-20ドイツ代表対U-20日本代表(2-1でドイツが勝利)戦のことで間違いないだろう。この試合で小川は自身へのファウルで得たPKを蹴ったが、ブローダーセンに阻まれた。

「僕がチームの決まり事を破ってPKを蹴って外したことがあった。内山篤監督は普段怒らない人なんですけれど、『チームで決まっていることに反してPKを蹴って、それは良くない』とすごく怒られたんです。(フォレンダム戦では)それがよぎった。『チームの規律のことを考えることによって、自分に必ず返ってくる』と信じていました。だから3点目のゴールのときに、ボールが僕のところに来たんだと思います。若いときの経験は活きているなと思います」

「チームで決めたPKキッカーの序列を尊重しないといけない」「俺がPKを決めたい」ー―その思いで小川の心が揺れ、最後は前者の気持ちが勝った。

「俺は何のためにここに来たのか。チームを勝たせるため、数字を残すために来た。PKでもしっかり結果を残すことを大事にしていた。それでも、自分が蹴っていたらどうなったか分からない。(チームとして)いい結果になった」

 26歳ストライカーの豪胆な思考と繊細な思考が行き来した。

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