【大宮】黒川淳史――ミスからファウル、警告も… それでも漂わせた“大物”の予感

2016年02月14日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

「線の細さ」はある。だが、将来を夢見たくなるプレーを披露していた。

ただ一生懸命に。黒川は眩い光を放ったわけではないが、確かな才能をホームスタジアムで見せていた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 明らかに小さい。公称170センチ、60キロ。つい先日、2月4日に18歳になったばかり。記者席から眺めていて、74分に投入されたルーキーの黒川淳史は、線の細さが際立っていた。

【プレシーズンマッチ PHOTOハイライト】大宮 2-1 山形
 
 その体躯は、明らかに「プロの世界」に馴染めていない。ただただ、「細い」――。その単語が、耳を澄まさずとも記者席から聞こえてくるほどに、異質な存在であった。
 
 だが、ピッチに立てば一切合財の言い訳など通用するはずもないのがプロの舞台だ。そのことは新人である黒川も百も承知。そしてNACK5スタジアム大宮での初お披露目は、生意気なほどに緊張なく終わっている。
 
「お客さんが入ると、ピッチを狭く感じました。ただ、それは途中出場で(試合の)雰囲気に慣れていなかったからだと思う」
 
 ユースからの昇格組。大宮の未来を明るく照らすであろう若者の出番は、たった20分弱だった。そして、すべてを背負うようなプレーをできたわけでもない。それでも……。
 
 ミックスゾーンで発せられる言葉は、高校生のそれではなかった。自身のプレーを冷静に分析し、質問に戸惑うことなく、最適解を弾き出す。
 
「ボールを奪って(自分に預けてもらってから)前に仕掛けて取られてしまうのは、もちろんダメ。状況を判断しながら、しっかりボールをつなげられるようにしないと」
 
「(勝負して)仕掛けるところと、コントロールしなければならないところをきちんと理解していかないといけない。自分の怖さが出せるのは、ペナルティエリアの中かなとは思う。そこまでは大きなリスクを取るのではなく、余裕を持ったプレーを心掛けたい」
 
 はっきりと言えば、プレー全般の質やスピードはまだまだ物足りない。ユースレベルでは上位なだけだ。
 
 黒川自身は、開幕に向けてほぼ出来上がったメンバーに自身が組み込まれた理由を「ゴール前の仕掛けや、ドリブルを評価された」と分析した。そして同時に、「判断」を自身の課題のひとつとして挙げる。
 
 だが、判断のスピードならば、プロの一線級とも勝負はできるのではないだろうか。
 
 目を引いたのは、決して褒められる場面ではなかった、イエローカードをもらった88分のプレー(ワンタッチでボールを家長に戻したが、パスコースを抑えられていて、山形の佐藤に掻っさらわれた)はそれを物語っていた。

 本人はそのシーンをこう振り返っている。

「あそこで(ボールを奪った佐藤選手に)行かれたらヤバったんで、掴みにいきました。最終ラインのメンツしか残っていなかったので、『止めないと』と思った」

「自分のミスです。アキさん(家長昭博)が抑えられているのが見えたのだから、パスをキャンセルしなければいけなかった。判断スピードが足りない。あれは、チームにも(山形の)佐藤選手にも申し訳なかった」
 
 確かに、ボールを離す判断を誤らなければ、余計な警告を受けなくて済んだのだろう。
 
 だが、一瞬にピンチを感じ取り、プロフェッショナルファウルとも言うべき行動を即座に実行した姿勢は評価したい(もちろん、どんな状況であれ反則は公然と認められるべきではない。だが、味方と相手、試合の流れを読んでピンチを摘み取ろうとした行動は、贔屓目込みで「有り」だ)。
 
 総じてみれば、彼は決して順風満帆なスタートを切れてはいない。プレシーズンマッチで得点を挙げたわけではなく、アシストも記録していない。出場時間も少ない。そのなかで警告を受け、プロの洗礼も浴びた。
 
 それでも、プレーの一つひとつに大物の予感を漂わせたのは紛れもない事実だ。
 
「NACK5スタジアム大宮での囲み取材は初ですけど、ユースの時から慣れてはいるんで緊張はしてないです」
 
"近い将来"などと不確定な言葉ではなく、きっと黒川は今季のうちに頭角を現わすだろう。素朴に、純粋に、真っ直ぐに。普段の練習から真摯に取り組み、アピールを続ける彼は、偉大な先達から多くを吸収し、きっと大宮の星となってくれるだろう。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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