「日本人ばっかり出して」「弱いじゃないか!」ファンが不満を抱いたSTVVが100周年で挑む“ユース育成改革”の全容~立石敬之CEOに訊く【現地発】

2023年09月07日 サッカーダイジェストWeb編集部

シント=トロイデンVV、立石敬之CEOインタビュー[後編]

STVVはリーグ戦開幕2連勝と上々のスタートを切った。観客動員アップを果たしている(写真手前は山本)。(C)STVV

 2018-19シーズンのSTVVは20国籍もの選手が集まった多国籍軍団だった。当時、遠藤航は各国の挨拶を覚えてチームメートとのコミュケーションを図ったという。

 今季の選手国籍は11とそれなりの数に及ぶが、日本人選手とFW カーヴェ・ザヒロレサラーム(アメリカとイランの二重国籍)を除くとEU国籍保有者(アフリカ系の二重国籍者を含む)ばかり。ピッチの上にはベルギー人選手がずらりと並ぶ。

 なかでもSTVVアカデミーから昇格した若手4人衆はチームに新鮮な風を吹き込んでいる。DMM.comプロジェクトの立ち上げ時より立石敬之CEOが掲げていた育成強化が花開こうとしている瞬間を迎えているのかもしれない。

 STVVアカデミーには逆風も吹いている。昨季よりSTVVの各年代チームは"エリート2(2部リーグ)"でプレーせざるを得ない状況に陥っている。"エリート1"への昇格は、リーグ戦の結果ではなく、施設や指導者などに付けられるポイントが大きな比重を占めるため、予算規模の大きなクラブにとって優位なシステムになっている。それでも立石CEOは逆境を逆手に取って、未来のベルギー代表選手を作るという。

 2024年2月23日に100周年を迎えるSTVVに対するファンの期待は膨らんでいる。インタビュー後編となる今回は、主に育成について立石CEOに話を伺った。

――大王わさびスタイエン・スタディオンの2戦は7026人(対スタンダール)、8365人(対アンデルレヒト)の観客を集めました。昨季の5500人(対ユニオン)、5753人(対アンデルレヒト)と比べると36%増です。

「ひとつは100周年への期待があります。正直、開幕戦は動員をかけたところもある。その開幕戦で思ったより良いサッカーができた。

 うちの広報は地元の人間なのでファンへのアプローチの仕方を知っている。ファンにもよりますが、昨季までのSTVVには『日本人ばっかり出して』『地元出身の選手がいない』『面白くない』『弱いじゃないか』と不満があったりしたんです。でも今季はスタンダール、コルトレイクに勝って2連勝。しかも良いサッカーをしているし、アカデミー出身の選手が4人レギュラーで出ている。それで広報がSNSで『これだけユース出身の選手が出ていて2連勝中。なぜアンデルレヒト戦に来ない? 来ない理由を述べよ』って宣伝したらファンが試合に集まった。

 でも、やはりアカデミー出身の4人がレギュラーなのが大きい。プレシーズンからアカデミーの選手がたくさん試合に出ていたのが、開幕に向けてかなりの呼び水になりました」
 
――シーズンチケットの売れ行きも好調と伺っています。

「これまで私はゴール裏のファンと意見交換会をしていたんですが、今季からシーズンチケットホルダーとのミーティングも始めたんです。1回目が20人以下、7月の2回目が50人集まりました。3回目は100人になると言われています」

――ファンは立石CEOと直接話したがっているんですね。

「はい、話したがっています。けっこう凝った話をしてあげていると思います。ゴール裏のファンは『俺らが(サポーターの)代表だ』みたいに感情的になったりする。シーズンチケットホルダーは単純に『CFを獲らないのか』とかユースのことなど、一般的なサッカーの話ができる」

――前回の話し合いの内容は?

「最初は財務内容など、情報をいろいろ公開してプレゼンする。そこから質問を受け付けます。"エリート2"のことに関しては、レギュレーションが変わって、お金がないと(施設などがアップグレードできず)"エリート1"のメンバーになれない。STVVは財政的に勝負する気はない、もっと本質的なところで勝負する――と伝えました。

 質の良い指導者がいれば、良い選手が出てくるわけですね。お金をたくさん使っているアントワープ、ヘント、ヘンクは何人ユースから上がってきた選手がピッチに立っているのか? いま、STVVは"エリート2"かもしれないけれど、何人ユース上がりの選手がトップチームの試合に出ているのか? そこが大事じゃないか――というのが私の答えでした」

次ページ「STVVはこの夏、全部で40人引き抜かれた。だけど彼らは…」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事