なでしこジャパンはフィジカルの差で負けたのか。世界と互角に戦うには“武器”を磨くべき【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2023年08月23日 小宮良之

日本人が高さやパワーで立ち向かおうとすれば一敗地に塗れる

なでしこジャパンは準々決勝でスウェーデンに屈した。(C)Getty Images

「フィジカル的に強化すべき時が来た」

 FIFAの公式サイトで、そんな記事が掲載されている。

 女子ワールドカップ、準々決勝でスウェーデンに1-2と敗退した"なでしこジャパン"の課題を指摘していた。要約すると、「日本はスウェーデンの体格差を生かした球際に苦しみ、思い通りの攻撃ができず、劣勢に立った。セカンドボールも拾われ、フィジカルの差が出た」といったところか。高さも含め、相手がパワー勝負をしてきた敵の土俵に引き摺り込まれたのは間違いないが...。

 フィジカルの差を見せつけられた大会後、なでしこはフィジカル強化に力を注ぐべきなのか?

 そんなことはあり得ない。

 率直に言って、フィジカルパワーとは単純に体格がものを言う。日本人とスウェーデン人の体格差は、長い歴史の中で作られた"民族的なもの"であって、突然日本人の身長が高くなったり、あるいはスウェーデン人が小さくなることもない。日本人が高さやパワーで立ち向かおうとすれば、一敗地に塗れる。

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 日本人のアドバンテージは俊敏性、素早さの中での高い技術、そのコンビネーション力にある。これは欧米の人たちが嫉妬するほどの能力で、男子も同じことが当てはまり、久保建英などがめざましい活躍ができるのも、そこに尽きる。「機動力」を活かしてこそ、日本は世界と互角に戦えるのだ。

 事実、日本は体格差で勝るノルウェーを一蹴している。

 スウェーデンの勝因は、フィジカルと言えるだろう。前半立ち上がりからインテンシティの高いプレーで押し込み、セットプレーでアクシデントを起こし、2点を先制した。高さでも脅威を与え、してやったりだった。

 しかし、日本の敗因はフィジカルではない。

 あえて言えば、持ち味である機動力を前半から発揮できなかった点になる。それはスウェーデンの強さに阻まれたとも言えるが、ピッチに立った選手のメンタル面でも布陣編成的にも、やや受身に回ってしまった。(相手の方が日程的に厳しく)後半勝負の陣容が仇になったか。ノルウェー戦では、左から遠藤純が攻撃こそ防御なり、になっていたが、スウェーデン戦では反撃が遅きに失した。

 コンタクトプレーがあるのも原則だけに、フィジカル向上にも目を背けるべきではない。体のバランスや体の当て方は、より高めるべきだろう。セットプレーでの高さへの対処では、GKに求められるものは確実で(スウェーデンの先制点は、パンチングをエリア外には飛ばさないと厳しい)、フィジカルもサッカーの一部だ。

 しかし、日本は日本が持つ武器で敵を叩く戦いを磨くべきだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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