相次ぐ有力日本人選手の“欧州流出”。「Jリーグの空洞化」を危惧する声もあるが、この流れを止めるべきではない【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2023年08月04日 小宮良之

去る人がいれば、戻ってくる人もいる

今夏にシント=トロイデンに移籍した伊藤(左)と山本(右)。(C)STVV

 この夏、Jリーグの有力日本人選手の"欧州流出"が止まらない。

 伊藤涼太郎(アルビレックス新潟→シント=トロイデン)、山本理仁(ガンバ大阪→シント=トロイデン)、町野修斗(湘南ベルマーレ→ホルシュタイン・キール)、小川航基(横浜FC→NEC)、安部柊斗(FC東京→RWDモレンベーク)、金子拓郎(コンサドーレ札幌→ディナモ・ザグレブ移籍)...。他にも、何人か海を渡る可能性がある。

 すでに80人前後の日本人欧州組がいると言われるが、それは一つの流れと言えるだろう。

「このままでは、Jリーグが空洞化する!?」
「国内に魅力がなくなった!」
「レベル低下が著しい」

 そうした危惧や嘆きの声もあるかもしれないが、どれも当たらない。

 ヨーロッパとのマーケットがつながった、という点は「正しい流れ」と断言できる。選手にとっては望ましい。選択肢が増えたからだ。

【PHOTO】2023年夏に欧州で新天地を求めたサムライたち
 一時的には有力選手の流出で、レベルは落ちるかもしれない。実際、強烈な円安状況もあって、国際競争力で劣るのは問題だし、Jリーグ全体のレベルはやや低迷している。しかし長い目で見た場合、日本サッカーにとってこれ以上の強化はないだろう。その循環は、自然とJリーグ全体も活性化させるはずだ。

 去る人がいれば、戻ってくる人もいる。安部裕葵(FCバルセロナ→浦和レッズ)、田中聡(KVコルトレイク→湘南ベルマーレ)、前田直輝(FCユトレヒト→名古屋グランパス)、原大智(アラベス→京都サンガ)というJリーグ復帰組は、新たな視点を与えてくれるだろう。欧州でピッチに立った実績は伊達ではない。

 実際、欧州でのキャリアが長く、戦果を挙げきた有力選手たちは格が違う。大迫勇也(ヴィッセル神戸)はその筆頭で、歴戦の強者といったところか。武藤嘉紀、酒井高徳(神戸)、酒井宏樹(浦和)、鈴木優磨(鹿島アントラーズ)、香川真司(セレッソ大阪)は、それぞれチームをけん引する存在になっている。周りの選手も触発されつつあるほどだ。

つまり、Jリーグと欧州リーグの行き来が確立されたことによって、選手の成長が促されている。選手の出入りのサイクルが早まったことによって、若手にも多くのチャンスが与えられるようになった。主力選手が1シーズンで大きく様変わりしてしまうことで、クラブが人気を定着させる戦略に工夫は必要になったが、「日本サッカーの強化」という意味では望ましい形だ。

目先のマイナス面を恐れて、この流れを止めるべきではない。選手の循環をどんどん続けるべきだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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