果たすべき役割を全うしたうえでのゴール。なでしこ田中美南の献身。“チームを勝たせる”エースストライカーへ

2023年08月01日 西森彰

最優先事項は「チームを助けること」

スペイン戦は途中出場から1得点。圧巻のゴラッソを叩き込んだ。(C)Getty Images

【女子W杯・GS第3節】日本 4-0 スペイン/7月31日/ウェリントン・レジオナル・スタジアム

 ここまでグループステージの2試合で務めた1トップの先発の座を植木理子に譲り、スペイン戦で田中美南はベンチスタートになった。

 想定通り、スペインにボールを持たれる時間が長くなったなでしこジャパンだが、数少ないチャンスを、宮澤ひなた、植木が次々に決めていく。田中は、後輩たちの頼もしい姿を「すごいなぁ」と眺めていたという。

 代表でも、いつの間にか若手を引っ張る立場になってきた。ポジションが重なる選手の活躍に刺激を受けることはあっても、「自分も取らなきゃ」と肩に力が入ることはない。

「『おお、みんな、いいなぁ。活き活きとしていていいなぁ』っていう感じです」(田中)。チーム内の背比べでムダに消耗するくらいなら、そのエネルギーは自分の出番に残しておく。

 猶本光らとともに世代別代表で世界の頂点に迫りながら、代表定着までは時間がかかった。なでしこリーグで得点王を取り続け、代表でもストライカー一本で勝負しようと試みたが、ポジション確保にはつながらない。

 ストライカーという役割にプライドを持っていただけに、残した数字を評価してもらえない悔しさもあったが、自らの高いポテンシャルを、ゴール以外の部分へも振り分け始めた。
【動画】今大会屈指の美しさ!個の力で叩き込んだ田中美南の圧巻ゴラッソ
 もともと世代別代表では、サイドからチームメイトのゴールをお膳立てしながら、自分でもゴールを奪う選手だった。器用さや適応力がないわけではない。完成された連係で多くのゴールをお膳立てしてくれた日テレ・東京ヴェルディベレーザを離れて、INAC神戸レオネッサへと移籍。その後、ドイツでもプレーし、決まったユニットでなくても真価を発揮できることを証明するとともに、プレーの幅を広げていった。

 前線からの組織的な守備に特長がある今回の代表では、その先駆けとしてボールを追い、多くの局面に顔を出し、汗をかき続けている。ザンビア戦ではVARに得点を何度も取り消されながら、自身のW杯初ゴールを挙げた。しかし、ゴール以外の部分での貢献度は、さらに大きい。

 この日も後半途中で池田太監督から声をかけられた田中は、ピッチへ向かいながら、チームのために何ができるかを考えた。まずは前線からの守備、全体に重心が後ろへかかるなかで、起点としてボールを落ち着かせる役割。

 もちろん「自分も」と得点に意気込む部分も残ってはいたが、今の田中にとっては、最優先事項でない。「根本では、チームを助けるということが一番」なのだ。

 82分、右サイドで、I神戸のチームメイト守屋都弥からスローインのボールを受けると、仕掛けてきた相手のファーストアタックを退ける。そこからは、長く耐えてきた味方のサポートを頼らず、独力での突破を試みた。

 自分のリズムでボールをまたぎ、コースを探り、打つタイミングをはかる。そして、左足でコントロールしたシュートを、ファーサイドへねじ込んだ。

 途中出場の選手として、果たすべき役割を全うしたうえでのゴール。「だから、チームのために決めることができて、率直に言って、嬉しい」(田中)。そして、価値も光を増す。

「点を積み重ねるストライカー」から「チームを勝たせるエースストライカー」へ。待たされる時間で熟成されたそのプレーを、ラウンド16以降でも期待したい。

取材・文●西森彰(フリーライター)

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