すっかりPK戦で勝てなくなっていた矢板中央。土壇場で“先輩ふたりの振る舞い”を真似た正守護神が窮地を救う!【総体】

2023年08月01日 森田将義

「選手権予選からPK戦に苦手意識を持っていた」と高橋監督

勝利に歓喜の雄叫びを上げる大渕(奥)。矢板中央は雷による2時間の中断など、壮絶な高川学園との一戦をPK戦でモノにした。写真:森田将義

 力強さを前面に押し出した堅守速攻スタイルとともに、勝負強い印象がある矢板中央(栃木)だが、今年に入ってからPK戦で一度も勝っていなかった。

「ここに来る前も練習試合とかでやらせてもらいましたが、全部負けていました。昨年から勝てなくなっていた。選手権予選の準決勝で宇都宮短大付属に負けてから、PK戦に苦手意識を持っていた」とは高橋健二監督の弁。選手たちも苦手意識は拭えず、今大会に入ってからはPK戦に突入しないよう、70分以内に決着をつけようと話していたという。

 だが、高川学園(山口)と対戦した3回戦では後半早々にFW渡部嶺斗(2年)が倒され、PKを獲得したものの、MF井上拓実(3年)のキックはわずかに枠の右外。苦手意識をさらに強くしても不思議ではなかった。

 加えて、後半の飲水タイムに突入したタイミングで雷雨により、試合が一時中断。約2時間後に再開したが、「バスにいたり、クラブハウスにいたのですが、(中断は)初めてなのでどうしたら良いか分からなかった」(井上)という。後半16分30秒から試合が再開され、後半終盤に得た決定機も決め切れず。70分を終えてPK戦に突入したのは、矢板中央にとって良くない流れだったのは間違いない。

 そうした嫌な雰囲気を払拭したのが、守護神のGK大渕咲人(3年)だった。井上は「正直、練習試合では咲人が止めたシーンもあまりなかった」と振り返るが、事前に高川学園のPKの映像をチェックしていたため、相手の4番手FW山本吟侍(3年)までが、どちらに蹴るか頭に入っていたという。「GKコーチには自分を信じて頭を整理するようにと言われた。映像もあったので何人か来る方向が分かっていて、思い切り飛ぶだけだからとも言われていた」と振り返る。そうしたコーチのアドバイスと分析が見事にハマり、1本目のキックは読みを見事に的中させた。

 幸先の良いスタートを切ったものの、以降が続かない。矢板中央も5人目のキックが相手GKに止められ、サドンデス方式の延長戦になったが、両チームともにしっかりPK練習をしてきたため、次々にゴールネットが揺れていく。

 再びキックを止めるため、大渕がとった行動は先輩GKの立ち振る舞いだった。1人目は埼玉県出身の大渕が矢板中央へと入学するきっかけとなった、憧れの選手であり、ふたつ上のGK藤井陽登(現・明治大)。「陽登さんは止められなくなった時に何かを変えていたと言っていた」。

 そして2人目は昨年の守護神で、ひとつ上のGK上野豊季(現・白鷗大)がしていたPK戦前の動き。良い流れに変えるため、ふたりを参考にし、それまでは相手選手に一度背を向けてから挑んでいたのを、6本目から腕を組んで下を向いた状態からキック直前に身体を大きく見せながら揺れる、上野のスタイルに変えた。
 
 動きを変えても6本目から9本目まではキックを止められなかったが、10人目で取り組みがようやく日の目をみる。相手が真ん中に蹴ってきたのに対し、大渕の予想は右。読みは外したが、「思い切り飛んで足に当たったら良いなと思った」と残っていた足に当たって、無事ストップ。直後のキッカーがきっちり決めて、矢板中央がPK戦を9-8でモノにした。

 高身長を買われて、小学5年生からGKを始めた守護神は、高校1年生ながら選手権の舞台で活躍する藤井の姿を見て矢板中央の門を叩いた。全国区の強豪とあってライバルは多く、これまでなかなか定位置を掴み切れなかったが、背番号1を授かった今大会はようやく憧れの先輩と同じように全国で活躍する姿を披露できた。

 活躍を一度きりで終わらせるつもりはない。PK戦の苦手意識を克服したチームと共に準々決勝以降も、ピッチで躍動しつづける。

取材・文●森田将義

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