移籍市場の裏側を読み解く!近年増加している「買い取り義務付きレンタル」のカラクリは?

2023年07月08日 片野道郎

「オプション」との境界線は限りなく曖昧

一例を挙げれば、このラスパドーリ。22年夏、サッスオーロは1年後の約35億円(+ボーナス)での買い取りを条件にナポリへ貸与した。 (C)Getty Images

 クラブに経営の健全化を促すためにUEFAが2011年に導入したファイナンシャル・フェアプレー(FFP)によって、移籍収支の大幅な赤字化に制約がかかっていること、コロナ禍以降の財政難の中で財務規制をクリアするために赤字の抑制は必至なことから、いかに移籍収支を悪化させずに戦力を強化するかが全クラブの課題。その主要な手段となっているのがレンタル契約の活用だ。
 
 当年分の予算を使い切ったうえで、さらに補強が必要な場合、来年分の予算を"先食い"するために使われるのが「買い取り義務付きレンタル」という形態。これは、本来ならば完全移籍で獲得すべきところを、1年間(時には2年間)のレンタル契約とする代わりに、レンタル終了後の買い取りを事実上義務づけるオプションを組み込むことで、移籍金の支払いを実質1年先延ばしするというもの。
 
 売り手にとっては資金回収が1年遅れるだけに思えるが、それと引き換えに高めの移籍金を設定でき、1年後の収入が計算できるというメリットもあるほか、買い手の立場に立てば「お互いさま」という部分もあるため、近年はこの形態が多用されている。

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 ちなみに、イタリアの規約ではレンタル契約に際し、事後の買い取りを義務づけることが実は認められていない。だが、容易に達成可能な付帯条項(例えば公式戦1試合以上出場)をつける抜け道を使うことで、実質的な義務にするトリックが用いられている。したがって、現実には「義務」と「オプション」の境界線は限りなく曖昧だ。
 
 また、余剰戦力の整理にもレンタル契約が多用されている。借りる側が年俸を負担すれば、貸す側は人件費を抑制できるうえ、レンタル先で活躍すれば資産価値の減少も避けられる。移籍マーケットの終盤に、余剰戦力の無償トレードで互いの利益になる補強を行なうというのもよく見られるケースだ。
 
文●片野道郎
※『ワールドサッカーダイジェスト』2023年6月15日号より転載
 
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