「サッカー人生で最悪の瞬間」スペイン代表DFの足を折って輝きを失ったブラジル人MF。危険なタックルは自らも傷つける可能性がある

2023年06月23日 小宮良之

「できることなら、彼と立場を代わりたい」

大怪我を負わせてしまったことでキャリアが暗転したジオバネッラ。(C)Getty Images

 敵陣での背後や横からの身体を投げ出すようなスライディングタックルは、よくよく気を付けた方がいい。死角から、全パワーで入るタックルは、控え目に言って危険行為だ。

「戦う」

 そんな姿勢ですべてを肯定するべきではない。なぜなら、敵陣で一か八かのタックルをする必然性はなく、他の守り方がいくらでもある。自陣内でお互いがやり合っている状態とは違い、予測もしにくい。

 相手を傷つける可能性があるということは、自らも傷つける可能性があることを覚えておくことだ。

 2001-02シーズン、スペイン人マヌエル・パブロは当時、デポルティボ・ラ・コルーニャで中心的存在だった。鉄壁の守備と豪快な攻め上がりで、レアル・マドリードなどビッグクラブからオファーを受けていた。世界最高の右サイドバックとしてその名を轟かすはずだったが…。

 その日は、ガリシアダービーだった。当然、お互いが熱くなる。ギリギリの勝負だ。

 Ⅿ・パブロがカウンターで、自陣内からドリブルに入る。馬力のある持ち上がりで、ギアがトップに入った。そこで、左手から全速力で迫ってきた敵よりも前に出ようとした。スピードを上げた瞬間、スライディングした相手の足が右足を直撃。すねが痛々しく折れ曲がった。腓骨と脛骨の骨折で、選手生命も危ぶまれるほどだった。

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 1年で復帰できたのは、ほとんど奇跡だったと言える。その後も15年ほど現役を続けられたし、スペイン代表にも返り咲いた。ただ、ケガ以前のプレーはできなくなっていた。

 一方、Ⅿ・パブロの足を折ったブラジル人MFジオバネッラはタックル直後、顔面蒼白になった。チームメイトから次々に励まされ、デポルのブラジル人MFマウロ・シルバにも慰められたほどだ。

「五分五分のボールだと思い突っ込みましたが…。故意ではなかったことをわかってほしい。できることなら、彼と立場を代わりたい。自分のサッカー人生で最悪の瞬間です」

 ジオバネッラは、罪を懺悔するようだった。Ⅿ・パブロの病室にも見舞いに訪れ、何度も謝罪した。落ち込みも激しかった。直前まで、ブラジル代表入りも噂されていたが、突如としてプレーの輝きを失う。その後はチームも2部に降格し、自身はドーピング検査で違法薬物が検出され、2年間の出場停止処分を受けた。最後のシーズンは4部のクラブで、ようやくサッカーを謳歌できたという。

 半年以上も棒に振るようなけがというのは、選手にとっては牢獄に入れられるに近い。同じ選手なら、その気持ちがわかる。そのせいで、同じような痛みを負ってしまう。

 サッカーにおけるケガは、ほとんど必ず起こるものである。ぶつかることに容赦する必要もない。しかしサッカーは格闘技ではなく、ボールプレーが基本である。敵陣での背後や横の死角からタックルにいかなくても、十分に成り立つスポーツなのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
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