【高校選手権】鳴門 0-3 矢板中央|矢板中央の「10番」が両親への“恩返し弾”で勝利の立役者に

2016年01月02日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

「拓哉は拓哉なんだから」の言葉に励まされて。

途中出場から2ゴールを決めた“10番”人見。「(先発から外れて)相当、悔しかったと思いますけど、よく乗り越えてくれて、ここで素晴らしい形で結果を出してくれた」と、高橋健二監督もその活躍ぶりを高く評価した。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 矢板中央のナンバーテンを背負う男が大仕事をやってのけた。
 
 前半24分に途中出場でピッチに入ると、2トップの一角でプレー。1点をリードした前半は思うようにゴールチャンスに絡めず、後半17分には決定機を決め切れなかった人見拓哉だが、その直後、結果を出してみせる。
 
 同18分、左サイドを突破した森本ヒマンのクロスに果敢に飛び込み、チームが欲しかった追加点をヘディングシュートでねじ込む。さらに同28分、再び、森本の縦パスに反応すると、正確なシュートでネットを揺らし、勝負を決定づける自身2得点目をゲットした。
 
「途中から出て、自分がやるべき仕事をやっただけです」
 
 2-1で勝利した大分との1回戦でも、後半11分に途中出場したが、1本もシュートを放てず、不完全燃焼のまま試合を終えた。しかし、3回戦進出が懸かるこの鳴門戦では訪れたチャンスを確実にモノにし、勝利の立役者となった。
 
 ゴールを奪えそうな予感はあったという。
 
「朝起きて、いつも(予感は)あるんですけど、今日は特にありました。そんなに緊張感もなく、落ち着いていけました」
 
 前回の選手権では、2年生ながらスタメンでピッチに立っていた。しかし、最上級生になった今年度は、夏頃から先発を外れるようになった。
 
 それでも、決して腐らず、日々のトレーニングに励んできた。
 
「スタメン争いが激しいなかでも、やっていかなければいけないと思っていました。ここで競争に負けたら、後半から出られるチャンスもない。本当に、食らいついていく感じで、選手権まで頑張ってきました」
 
 もちろん、気持ちが折れそうになったこともある。しかし、「チームが辛い時に助けられる10番でありたい」という気持ちのほうが勝った。妥協したくなかった。
 
 挫けそうになった時、自分を見失いそうになった時は、両親に胸の内を明かしたこともある。両親からはこんな言葉を送られた。
 
「拓哉は拓哉なんだから」
 
 その言葉で、自分を信じることができた。もう一度、前を向くことができた。だから、今日の2ゴールは、両親への感謝の気持ちも込められていた。
 
「メンバーに入れなかった仲間のために点を取る、という気持ちもありましたが、やっぱり、3年間支えてくれて、サッカーを続けているなかで、親に恩返しができたのかな、と」
 
 ひとつの達成感を口にした殊勲のヒーローは、しかしすぐにその表情を引き締めた。
 
「でもまだ、今日は甘かった部分もたくさんあったので、次に切り替えて、明日もしっかりとやっていきたいと思います」
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
 
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