【プレミア現地コラム】戦前の懐疑論はどこへやら――憧れの存在に追いついたケインが歩むレジェンドへの道

2015年12月30日 山中忍

2015年国内得点王は逃すも、それ以上の名誉を手に入れた。

着実にステップアップを遂げているケイン。トッテナムのレジェンド、そしてイングランド・サッカーの歴史に残る存在となれるか。写真はノーリッジ戦でのPK。 (C) Getty Images

 ハリー・ケインは本物か?
 
 今シーズンのイングランドでは、昨シーズン、トッテナムで得点源となった22歳のこの国産選手の出来が開幕前から注目されていた。トップチーム2年目の"壁"を予想する者からは、懐疑的な視線も注がれていた。
 
 それから4カ月半、ケインが世間に突きつけた回答は「本物」に他ならなかった。
 
 確かに、「ゴール枯渇期」は経験した。今シーズン初得点は9月後半。その間には、「ゴール前で慎重になりすぎた」、「昨シーズンの彼なら決めていた」といった意見が、識者間で聞かれた。
 
 しかし、翌月にハットトリックを決めた10節ボーンマス戦(5-1)以降、リーグ戦10試合で10得点を記録して、シーズン折り返し地点を通過している。
 
 本物の戦力である証は、再びネットを揺らし始める前から垣間見られた。
 
 自らのゴール以外でもチームの得点に貢献してみせたのだ。だからこそ、低調なチェルシーのジエゴ・コスタとは違い、メディアで「得点がない」と騒がれはしても、「動きが乏しい」などと非難されることはなかった。
 
 例えば、19節ワトフォード戦(2-1)。エリック・ラメラが中央から持ち上がって決めた先制点には、同じ中央から右へと流れて相手DF陣にパスを意識させたケインの動きが絡んでいた。
 
 他にも、彼が自陣内から左サイドを駆け上がって送ったクロスをラメラが正確にミートしていれば、前半のうちに追加点が生まれていただろう。
 
 この試合で無得点だったケインは、2015年国内得点王の称号を、1ゴールを挙げたワトフォードのオディオン・イガロに持っていかれた。しかし、その2日前に行なわれた18節ノーリッジ戦(3-0)では、より嬉しい肩書きを手に入れている。
 
 自身が奪ったPKを冷静に決め、さらに一瞬のシュートチャンスにファーポスト内側を射抜いた2得点で、リーグ戦年間最多得点(27点)のクラブ新記録保持者となったのだ。
 
 前保持者はテディ・シェリンガム。今シーズンから、「自分もレジェンドを目指したい」との意気込みで背番号を変えたケインが、憧れのトッテナム歴代10番として真っ先に名前を挙げた元FWだ。
 
 同日のハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・デー』では、司会のガリー・リネカーが「やはり本物かな?」と振れば、解説のアラン・シアラーが「間違いなく本物」と即答した。
 
 イングランド歴代名ストライカーの両巨頭から"証印"を頂戴したケインは、今シーズンの前半で巷の論争に終止符を打ち、正真正銘の「本物」としてトップ4の座を懸けた後半戦に挑む。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
山中忍/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。
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