「まだまだ負けねえぞ。譲らねえぞ」大宮Vのベテラン有吉佐織の気概。「申し訳ない」と悔やむ仙台L・松窪真心の思いやり【WEリーグ】

2023年06月11日 西森彰

試合前に乗松と市瀬が温かく抱擁

有吉(左)のシュートを果敢にブロック。市瀬(右)はこのゲームが引退試合に。写真:西森彰

 6月10日、WEリーグ2022-23シーズンの最終戦が各地で行なわれた。最終戦は各会場14時の同時刻キックオフ。NACK5大宮スタジアムでは、前節まで5位につける大宮アルディージャVENTUSが、前節で4位を確定させているマイナビ仙台レディースを迎え撃った。

 試合前、大宮Vの乗松瑠華が、この日で引退する仙台Lの市瀬菜々を、温かく抱擁した。年代別代表などでともにプレーした2人。この日は対戦相手となったが、同じ時代を駆け抜けた戦友という意識もあるのだろう。市瀬はキャプテンマークを巻き、ボランチでプレー。セットプレーや、シュートブロックでも存在感を見せた。

 そうした最終戦独特の空気感のなかで、シーズン途中に加入した仙台Lの松窪真心も、いつも以上に気合を込めていた。

「このメンバーではラスト1試合しかできない。順位はもう決まっていましたけれども、最後は笑って終わりたいというみんなの思いがありました」

 58分、松窪とともにJFAアカデミー福島から加入した佐々木里緒が、左足で鋭いクロスを送る。中央で佐藤楓が競ったボールが流れていったところを、ファーサイドで待ち受けていたのは、松窪だった。

「誰かが前で競ってくれれば、後ろにこぼれるなという感じがしていました。そこで、まさにピンポイントでそういうボールが来るとまでは思っていなかったんですけれども」

 チャンスでは、ゴールを意識しすぎる傾向があると自己分析する松窪だが、予想どおりにボールが流れてきたこともあって、この場面では落ち着いていた。
 
「いつもの自分なら『思い切ってゴールを奪おう』と空回りしてしまうんですけれども、あそこは冷静に、しっかりミートだけを意識しました。結果、良いゴールにつながったので、冷静にできたというところで、成長できているのかなと思いました」

 このゴールで仙台Lが、リードを奪った。

 1点を先制された大宮Vも、そのままでは終われない。前線から相手をはめていく守備で、シーズン半ばに上位へ浮上したが、そこから得点不足解消に挑み、ややバランスを崩した。この日は、そのバランス追求の集大成を見せる場でもあったが、前半からその成果は出ていた。

「全員が粘り強く、我慢する時間帯を我慢して、それでも後ろに引きずられずに、前から人数をかけていけていた。自分たちの特長を出せたんじゃないかな」と有吉佐織は振り返る。

 寄り合い所帯でスタートしたチームが、2年目で上位争いに絡み、新戦力の活躍も目立つ。それは、鮫島彩や有吉のようなベテランが、溶け込みやすい雰囲気作りをしているのだろう。

「自分たちを含めて、このチームには全員がウェルカムな感じで、お互いに、それぞれの良さを活かしていこうという雰囲気作りができている」と有吉。伸び伸びとプレーできる環境のもと、力をつけてきたニューカマーが、この日も大仕事をする。

 62分、キックオフから走り切った選手たちに代わって、杉澤海星、田嶋みのり、髙橋美夕紀を同時に送り込む3枚替えで、大宮Vに追撃のスイッチが入った。そして、70分、高い位置でインターセプトした坂井優紀から井上綾香とつなぎ、中央でボールを受けた大島暖菜へ。

 大島は詰めてきたディフェンダーを鋭い切り返しで外して、シュート。WEリーグ初の先発起用に応える同点ゴールで、試合を振り出しに戻した。
 

次ページ両チームを通じて最多7本のシュート

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