「僕のキック一本で試合をひっくり返せる」GK松本健太が繰り出す“ピンポイント”が井原レイソルの大きな武器に

2023年06月04日 鈴木潤

「得意だからこそ突き詰めてやらなければいけない」

自己分析に優れる松本。反省の言葉は、これからの成長を促すきっかけにもなり得る。写真:田中研治(サッカーダイジェスト写真部)

[J1第16節]柏4-5札幌/6月3日/三協フロンテア柏スタジアム

 7節の鹿島戦から正守護神に定着した松本健太は、柏アカデミー出身らしく足もとの技術の長けたGKである。すでに鹿島戦の起用からここまでの試合でも、ロングキックとビルドアップでその特長を示し始めている。

 しかし今節の札幌戦では、その持ち味が裏目に出た。松本は試合を振り返り、札幌の攻撃に対して後手に回った一因を述べた。

「僕からのボールや、後ろからのボールがどうしても引っかかってしまった。相手はマンツーマン気味で守ってきていたけど前には強いので、そこでボールを失って相手のショートカウンターを食らう形が多かった。それは反省しなければいけない」

 柏の2トップを務める細谷真大とフロートは、スピードとパワーを兼備したアタッカーだ。試合中、松本は得意のキックで何度も彼らに直接パスを送った。もちろんそのパスが細谷とフロートに渡り、数的同数の状況を突いて2トップが一気にスペースへ抜けられればチャンスにつながる。

 しかし松本の言うとおり、そのキックは札幌の守備陣に前向きで奪われる形になり、せっかくのマイボールをすぐに相手に渡してしまうという展開に陥った。

「真ん中の真大やジェイ(フロート)のスペースに付けた時に、ボールが合わないと前向きで弾かれてピンチに直結してしまう。そうなるのであれば、勇気を持って下でつなぐのか、真大とジェイには相手と競争してひっくり返せる力があるので裏のスペースを狙うのか、僕のキックでもはっきり示さなければいけなかった。真大とジェイとは話していたつもりでしたけど、そこのコミュニケーション、意思の疎通はいつもの試合より曖昧になっていた」

 松本はアカデミー時代から自己分析に優れ、自分の課題を見つけては、自らに矢印を向けて成長へつなげられる選手である。上記した彼の反省の言葉は、裏を返せば、これからの松本の成長を促すきっかけにもなり得る。
 
 井原正巳監督体制はリーグ戦3試合目で、まだチームとしてどう戦っていくか、はっきりとは確立されていない。ただ、井原監督をはじめ、各選手の言葉からは「自分たちが主導権を握るサッカー」へ移行させていく意思は伝わってくる。

 札幌の菅野孝憲がビルドアップに積極的に顔を出し、柏の前線からのプレッシングをはぐらかしたように、今後、足もとの技術に長ける松本がより多くの機会でビルドアップに加わり、そして得意のキックでピンポイントのパスを何本も通すようになればチームの戦いの幅は広がる。それは井原体制下の柏にとって、間違いなく大きな武器になるだろう。

 49分、松本はロングキックで左サイドを駆け上がる三丸拡にピンポイントのパスを送り、チャンスを演出した。彼のこうしたキックを、チームとして活かさない手はない。

「僕もキックは得意である分、確実にマイボールになるように蹴らないといけないし、蹴っただけで味方との連係が合わなかったら意味がない。もっと前の選手と話して、より突き詰めていければ、僕のキック一本で試合をひっくり返せることができると思います。得意だからこそ突き詰めてやらなければいけないと思います」

 試合は5失点し、GKにとっては屈辱的な敗戦になった。それでも松本は下を向かず、この敗戦をチームの勝利へつなげるべく、今後への成長を強く誓った。

取材・文●鈴木潤(フリージャーナリスト)

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