【ブンデス現地コラム】ハノーファー移籍が決定した山口蛍。レギュラー獲りの可能性は――

2015年12月25日 中野吉之伴

「日本の2部から来た選手が通用するのか」と懐疑的な声も…。

12年間を過ごしたセレッソを離れ、欧州初挑戦を決意した山口。親友の清武の存在がハノーファー移籍の決め手に。(C)Getty Images

 ハノーファーは12月21日、セレッソ大阪のMF山口蛍の獲得を発表した。クラブの公式サイトではマルティン・バーダーCEOの次のようなコメントが掲載されていた。

「我々は彼がブンデスリーガで活躍できると確信している。十分なクオリティーの持ち主で、中盤のポジション争いは激しくなるだろう。長い間チェックしてきた選手だけに、こうした報告ができるのをうれしく思っている。チームに馴染むために、同じ日本代表の清武弘嗣と酒井宏樹の存在が助けになるだろう」

 本来なら新加入選手の報告は、ファンに喜びと楽しみをもたらすものだ。だが、SNS上では「日本の2部リーグから来た選手が通用するのか」といった懐疑的な意見を少なからず目にする。こうしたネガティブなファンの心理とチームの成績は無関係ではない。ハノーファーはブンデスリーガ17節終了時点で降格圏の17位に沈んでおり、この現状を鑑みれば必要以上に不安になるのは無理もないだろう。

 痛恨だったのは、怪我で開幕数試合を欠場した清武の2度目の戦線離脱だろう。この10番を欠いた13節のボルシアMG戦以降の5試合は、1勝4敗と深刻な不振に陥った。

 0-1で敗れたバイエルン戦(17節)から2日後の12月21日には、ミヒャエル・フロンツェック監督が辞任を表明。「ここ数週間の監督人事を巡る騒動から、チームを解放してあげたかった。これが両者にとってベストの選択だ思う」。昨シーズンに土壇場での1部残留を勝ち取った功労者はそう語り、クラブを去っていった。

 新監督はまだ決まっておらず、後半戦のハノーファーがどのようなチームになるかは予測できない。ただ、課題は明白だ。攻撃のアイデアの欠如である。清武不在時は効果的な組み立てができず、不用意なパスミスからピンチを招く場面が多く見受けられた。また最終ラインが下がりがちで、ボールを奪う位置も低くなり、カウンターの威力も半減していた。

 再建の鍵を握るのは、中盤だ。前半戦は主にサリフ・サネとマヌエル・シュミーデバッハが中盤の底でコンビを組んだ。身体能力が高いうえ運動量も豊富な前者は不可欠な存在で、一方の後者は堅実さが売りだが、攻撃で変化をもたらせる選手ではない。

 山口が食い込む余地があるのは、そのシュミーデバッハが務めるセントラルMFの一角だろう。ポジショニングや展開力では山口に分があり、ブンデスリーガ特有の激しさとスピードに適応できれば、レギュラー獲りが見えてくるはずだ。

 コミュニケーション能力も、成功を収めるためには必須の要素だ。特に山口が務めるセントラルMFはチームの支柱たるポジションだけに、味方との意思疎通が極めて重要になってくる。

 山口は後半戦に向けたキャンプ初日の1月4日からチームに合流する予定だ。まずは練習でしっかりとアピールし、新監督の信頼を勝ち取ってもらいたいものだ。

文:中野吉之伴

【著者プロフィール】
中野吉之伴/ドイツ・フライブルク在住の指導者。09年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの実地研修を経て、現在はFCアウゲンのU-19(U-19の国内リーグ3部)でヘッドコーチを務める。77年7月27日生まれ、秋田県出身。
 
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