連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】楽しく呼吸を合わせる「MSN」の即興

2015年12月21日 熊崎敬

リーベルが囲んだように見えて、実際はバルサが囲ませていたのだ。

敵のプレスを軽くいなし、鮮やかに即興を演じてバルサを頂点に導いたメッシ、スアレス、そしてネイマール。MSNが輝きを放った。 (C) SOCCER DIGEST

 ヨーロッパ王者と南米王者の間には、明らかな力の差があった。
 
 記者席からゲームを観ていて、リーベルが囲い込みに成功し、「ボールを奪える!」という瞬間が何度もあった。だが、それはほとんど外れた。
 
 敵に囲まれてもバルサの面々は余裕でプレスを外し、囲いの外でフリーになった味方にパスをつないでしまう。
 
 つまり、こういうことだ。リーベルが囲んだように見えて、実際はバルサが囲ませていたのだ。
 プレスをかけるたびに背後を取られるため、リーベルはどうしていいのかわからなくなってしまった。
 
 サッカー選手にはそれぞれ、プレッシャーに感じる距離というものがある。上手い選手になるほど、敵が近くに来ても平然としている。
 
 バルサの選手は、敵が間合いに入ってきても慌てない。むしろ、敵が至近距離に近づいてくるのを待っている。その方が敵の背後を取ることができるからだ。
 
 一方のリーベルは敵が迫ってくると不安になり、早いタイミングでボールを手放していた。こうなると敵の背後を取ることはできず、ボールはいたずらに後ろか横へ回ることになる。
 
 広島戦でのリーベルは、敵を目の前まで引きつけて巧みに背後を取っていた。それがバルサを敵にした途端、何もできなくなってしまったのだ。
 
 バルサの中で、もっとも敵を囲ませていたのがメッシだった。
 メッシがドリブルを始めると、周りの敵はその動きにつられてしまい、危険なネイマールとスアレスを見失うことになる。気がついたときにボールを右へ左へ、前へ後ろへと動かされ、ネットを揺さぶられてしまう。
 
 メッシ、ネイマール、スアレスと渡った3点目が象徴的だった。メッシが斜めに斬り込むと、マークがメッシに誘い出されたことでネイマールがフリーに。これでネイマールは、スアレスに悠々と技ありのループパスを合わせてしまった。
 
 バルサが誇る「MSN」は、メッシ1ゴール、スアレス2ゴール、ネイマール2アシストと役者の違いを見せつけた。この3人が厄介なのは、スペースがあろうとなかろうと、あっさりとゴールを陥落させてしまうところだ。
 
 ワールドクラスは得てして並び立たないものだが、この3人はそれぞれがソロに走ることなく、互いに呼吸を合わせることを心から楽しんでいる。
 年末の横浜の夜、世界中がマエストロ3人の即興に酔いしれた。
 
取材・文:熊崎敬
 
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