なぜ移籍1年目の苦闘から2年目に飛躍できたのか。「腐っているなんてありえない」瀬古樹を押し上げた覚悟と周囲の支え【川崎】

2023年05月11日 本田健介(サッカーダイジェスト)

札幌戦、そして清水戦が転機に

ルヴァンカップの清水戦では今季初ゴール。川崎の中盤で存在感を高める。(C)SOCCER DIGEST

 昨季、悲願のリーグ3連覇にまたも手が届かなかった川崎にとって、2023年は世代交代を含めた新たな挑戦のシーズンである。しかし、主力の立て続けの海外移籍もあり、安定感を欠いたチームは、黒星が先行する前途多難なシーズンインを迎えた。

 それでも鬼木達監督が「勝負どころ」と据えた、4月19日のルヴァンカップ・清水戦に6-0で快勝すると徐々に復調し、リーグ10節からは3連勝。そのキッカケとなった清水戦で今季初ゴールを挙げ、先発の座を掴み取ったのが、横浜FCから加入して2年目のMF瀬古樹である。

 川崎の心臓部と呼べる中盤の一角を担うようになった瀬古は、周囲と連係してリムズを作りながら、タイミングを見て前へ。今の川崎にバイオリズムをもたらす働きを担っている。彼は出場機会が限られた移籍初年度を経て、どんな変貌を遂げてきたのか。今、川崎で旬を迎えている25歳のプレーメーカーに迫った。

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 横浜FCから加入した2022年、川崎での1年目はリーグ戦で13試合(299分)・0ゴール、先発は2試合のみ。

 明治大出身のボランチは、大卒1年目の横浜FCですぐさまレギュラーを掴み、2年目の夏には南雄太の移籍によって23歳でキャプテンに就任。チームはJ2に降格したが、瀬古樹という名前を強くアピールした。

 それだけに「成長するため」に移籍を決めた王者・川崎でも即戦力として期待されたのは自然な流れだろう。しかし、瀬古を待っていたのは、川崎の予想以上のレベルの高さと激しい競争だった。

「去年の最初のキャンプや、その前に麻生でチームを立ち上げた時のトレーニングで衝撃を受けましたね。自分の特長として持っていたわけではないですが、技術はあるほうだと思っていたんですよ。でも、その概念がぶち壊された感覚がありました。

 まずパス回しをすると、みんな巧いのはそうですが、ディフェンスの強度が非常に高く、それをいなせる巧さがある。僕は最初の頃は全部ミスのような形でしたからね。『なんだこれは』と思いました」

 川崎の独特とも言えるパス回し、そして攻守の高い強度に面を食らう新加入選手は多いが、瀬古も同様の印象を受けたのだろう。
 
 なおかつチームは、悲願のリーグ3連覇を目指している状況であった。チームのやり方に適応しながら、自らの持ち味を出す。瀬古にとっては難しいチャレンジが待っていたのだ。2022年のオフ、瀬古は川崎での1年を振り返ると、自身の苦戦の理由も感じたという。

「去年は3連覇を目指すチームに入って、なんて言うんだろう、僕も横浜FCにいた時に、外から見ていたフロンターレのイメージがあって、なおかつ完成されたチームに入っていくなかで、上手く自分を出しながらも、どちらかと言うと、フロンターレのベースに合わせなくてはいけないという気持ちのほうが強かったんです。そこが、個人として上手くいかなかったところなのかなと、少し感じましたね。

 でも今年はチームとしても覇権奪回へ、再びやり直そうとしているシーズン。なので去年からの自主練などは続けながらですが、自分の強みを出していくところに一回フォーカスしてやることが、今年の入りで上手くできたのかなと、つながっているのかなと、思います」

 チームが苦戦するなか、今季も瀬古にはリーグ戦での先発のチャンスはなかなか訪れなかった。それでも迎えた4月1日のアウェー・札幌戦。チームはリーグ戦で1勝2分2敗の14位に沈んでいた。流れを変えるためにも勝利が欲しい一戦である。重要なゲームで瀬古は先発を託されたのだ。

「いろいろな考えがあって僕を使ってくれたと思うんです。だからこそ、ここで使ってもらった意味を表現したいと思っていました。特長である前への推進力や前への意識、走った選手を逃さず生かすという面を示そうと。

 去年、川崎で初めてリーグ戦に出場した鳥栖戦(△0-0/5月21日)でも、『このチャンスを逃したくない』と言っていたんですが……、それでも札幌戦は積み上げてきたものがあった分、チャンスを掴むという意味で結果が欲しかった。それは個人としても、チームが勝つという面でも。だから打ち合い(〇4-3)でも勝ち切れたことが今につながっていると思います」

 このパフォーマンスが前述の4月19日のルヴァンカップ・清水戦(〇6-0)につながり、4-3-3、もしくは4-2-3-1の中盤の一角を瀬古は担うようになる。そしてチームも上昇気流に乗ったのだ。
 

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