万全の状態ではない横浜を支える「チームの総和」。慌てず騒がずプレーした選手たちが、不安を杞憂に終わらせた

2023年05月08日 藤井雅彦

チームメイトのプレーを当事者意識で見つめる

与えられたタスクを懸命にこなす。この姿勢を抜きにして、上位争いを演じる今の状況は考えられない。(C)SOCCER DIGEST

[J1第12節]横浜4-1京都/5月7日/日産スタジアム

 京都に4-1で勝利して2連勝を飾った横浜が、6戦負けなしと好調だ。

 その6試合で挙げた得点は実に17。それ以前の6試合が8得点だから、比較した時の差は歴然としている。
【PHOTO】横浜の出場16選手&監督の採点・寸評。Y・マテウスは3得点に絡む。上島はまさかの左SB起用でも冷静にプレー
 ただし京都戦に関して言えば、少なからず難しい台所事情もあった。試合前日の練習で、キャプテンとしてここまで全試合に先発していた喜田拓也が負傷。コンディション不良の角田涼太朗も試合出場は難しく、両選手ともメンバー入りできず。

 さらに試合前のウォーミングアップ中に山根陸が「違和感を訴えた」(ケヴィン・マスカット監督)ため、大事を取ってメンバー外へ。大卒ルーキーでリーグ戦に出場した経験のない村上悠緋が急きょメンバー入りする緊急事態となった。

 喜田と山根の負傷はボランチが手薄になったことを意味する。同じように、角田と山根が不在になれば、今度は両SBのバックアッパー問題に直面する。3得点に絡んだヤン・マテウスの好調ぶりが光ったから良かったものの、試合展開次第では選手交代のオプション不足に陥るリスクもはらんでいた。

 そんな不安を杞憂に終わらせたのは、普段とは異なる起用法でも慌てず騒がずプレーした選手たちだった。
 
 72分、足を攣った渡辺皓太と交代してピッチに立ったのは吉尾海夏。本来は攻撃的なポジションの選手で、前節はウイングの位置で途中出場していた。それがチーム事情によって渡辺に代わってそのままボランチへ。練習では務めていたポジションだが、公式戦では初めての経験だった。

 本人は「ベンチメンバーを見渡した時に、もしかしたらボランチで出場する機会があるかもしれないと思って準備していた」と心境を明かす。ただ、ビルドアップではGKからボールをピックアップする重要な役割を担い、相手のプレッシャーに晒された。

 これには「練習では結構やっていたポジションだけど、試合は感覚がまったく違った」と話したものの、不慣れなポジションを何とかこなせたのは、チームとしての方向性が統一されているから。チームメイトのプレーを他人事ではなく当事者意識で見つめているからこそ、対応力が磨かれているのだろう。

 85分から途中出場した上島拓巳は、永戸勝也に代わって左SBへ。右SBでのプレー経験はあったものの、利き足とは反対の左SBは「プロだけでなく育成時代も含めて本当に経験ゼロ」。

 短い時間とはいえ、適性から離れたポジションでも「どこのポジションでも使ってもらえているのは、監督から信頼してもらっているからだと自分は思っている。加入する時には想像していないチャレンジになっている」と前向きに取り組めているのが横浜のチームカラーに馴染んでいる証拠だ。

 開幕直後に小池龍太が全治6か月の長期離脱を強いられ、昨夏に右膝前十字靭帯を負傷した宮市亮はまだ戦列復帰していない。新加入選手やコンバートされた選手が指揮官の期待に応え、与えられたタスクを懸命にこなす。この姿勢を抜きにして上位争いを演じる今の状況は考えられなかった。

 万全の状態ではない横浜を支えるのは、チームの総和。中盤戦以降もやり繰りしながらの戦いが続いていきそうだ。

取材・文●藤井雅彦(ジャーナリスト)

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