インフラは整備され、人々はマドリーに熱狂…WC4強のモロッコがクラブW杯開催で見せた“世界基準”。次に目ざすのは…【現地発】

2023年02月22日 アレックス・チスミッチ

「世界中の人々に私たちの情熱を知ってもらえたと思います」

クラブW杯で戴冠を果たしたR・マドリー。(C)Getty Images

 クラブワールドカップ2022の開催地モロッコには、今なおワールドカップの余韻が色濃く残っていた。開幕戦を含めて4試合が行われた、ジブラルタル海峡に面した港町タンジェの旧市街では、もう日が暮れようとしている時間になっても広場や公園からビーチまで、あらゆるところで子供たちがストリートサッカーに興じていた。入り組んだ細い路地でも、小さな子供がドリブルで観光客の間を縫っていく。
 
 モロッコでクラブW杯が行われるのは、2014年以来8年ぶり。しかしこの国を包む熱気は、8年前とは大きく異なっている。カタールW杯でベルギー、スペイン、ポルトガルを次々と破ってベスト4に勝ち上がり、準決勝では旧宗主国のフランスと堂々と渡り合った代表チームの大躍進は、モロッコの人々が元々持っていたサッカー熱をさらに燃え上がらせた。
 
「モロッコでクラブW杯を開催できるのを誇らしく思っています。モロッコはサッカーへの情熱で成り立っているような国です。でも今まではそれを世界に示す機会があまりありませんでした。ワールドカップで我々の代表チームが強国を次々に破り、今こうしてこの大会を開催することで、世界中の人々に私たちの情熱を知ってもらえたと思います」

 そう話してくれたアユブは23歳の大学生。開幕戦を見るために、800キロも離れた南部のアガディールから友人たちと車を飛ばしてタンジェまでやってきた。

「私にとってもこれは今までにない経験です。とても興奮しています。開幕戦の後は、我々モロッコの代表であるウィダード・カサブランカの試合が行われるラバトに行くつもりです」
 
 残念だったのは、CAFチャンピオンズリーグ王者としてこの大会に出場したそのウィダード・カサブランカが、初戦となる準々決勝でサウジアラビアのアル・ヒラルに延長・PK戦の末に敗れてしまったこと。アル・ヒラルは続く準決勝でも南米王者のフラメンゴを3-2で下し、アジアのクラブとして初めて決勝に勝ち上がったが、ラバトで行われた決勝では完全アウェーでの戦いを強いられた。というのも、大本命として決勝に勝ち進んだレアル・マドリーは、モロッコの人々にとって一番と言っていいほどお気に入りのチームだったからだ。
 
 モロッコには主要都市を中心にR・マドリーのファンクラブが数多く存在しており、彼らにとってこのクラブW杯は愛するチームをこの目で見る千載一遇の機会だった。会場となったスタッド・ムーレイ・アブドラは、R・マドリーがボールを持って敵陣に攻め込むたびに、モロッコのアラビア語で「行け!」を意味する「シール」という咆哮で満たされた。

 スペイン本国からやって来たサポーターは決して多くなかったにもかかわらず、R・マドリーが5-3という派手な撃ち合いを演じた末に獲得したクラブ史上100番目のタイトルを盛大に祝うことができたのも、彼らの存在があったからこそだった。
 
 スタジアムの周辺で、チケットを持っていないにもかかわらずR・マドリーを一目見ようと集まった大群衆による混乱が生じていたことも事実だ。しかしそれを差し引いても、モロッコがこの規模の大会を開催できる力を持ったサッカーネーションであることは否定のしようがない。2014年には長期的な視点に立ったインフラ整備のための投資プログラムもスタートしている。今ではアフリカで最もインフラが整った国になったと言っていいだろう。
 

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